猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

九月に降る風

2012-06-30 01:50:36 | 日記
2008年の台湾映画「九月に降る風」。
1996年の夏、台湾の新竹市。高校3年生のイェン(リディアン・ヴォーン)やタン
(チャン・チエ)ら7人は、ポケベルで連絡を取り合っていつもつるみながら、何か
騒動を起こしては教官室に呼び出される問題児グループだった。彼らの共通点は、
時報イーグルスのスター打者、リャオ・ミンシュンの熱狂的なファンであったこと。
不良グループ扱いをされる7人を心配するペイシン(チー・ペイホイ)や、イェンの
恋人であるユン(ジェニファー・チュウ)も入り乱れ、9人は複雑な人間関係へと突入
していく。その一方で、世間では野球賭博に絡んだ時報イーグルスの八百長疑惑で
激しく揺れていた。

すっごく良かった。7人の男子高校生と2人の女子高生の青春映画である。
7人の少年たちは少し素行が悪く、度々学校にいる教官から呼び出しをくらっている。
「またいつものメンバーね」と言われる。でもそんなに悪い子たちではなく、見て
いるとなんだか日本の高校生を連想する。誰かの家に夜遅くまでいておしゃべりを
したり、ゲームをしたり、ビールを飲んだり、バイクで出かけたり(台湾の高校生って
バイクに乗ってる人が多いんだなあ)、ナンパしたり、デートをしたり、プロ野球の
試合を見にいったり、勉強したり。
学校の雰囲気(校舎のデザインとか制服とか)も日本によく似ている。ついでに顔も
ほとんど日本人と同じなので、とても親近感が湧く。浮気症のイェンにやきもきする
ユンだが、本当はイェンはユンを愛している。そしてタンもユンにほのかな想いを
抱いている。ずっと続くかに思えた彼らの日常に、ある出来事が起き、彼らの心の
バランスが崩れていく。
この映画は2008年の作品なのだが、1996年が舞台になっている。その年、台湾で
プロ野球の八百長疑惑事件が起き、国民の大きな関心となったらしい。何度かその
ニュースの場面があるのだが、本当のニュース映像だと思う。イェンたちも、好きな
選手や球団に裏切られた思いで、野球から離れていく。それが物語の中で大きな軸に
なっていると思った。
ラストシーンがまた良かった。最後に野球選手が出て来るのだが、その人は本物の
リャオ・ミンシュン選手で、ゲスト出演をしている。その人に「ピッチャーできる?」
と聞かれたタンが、喜んでボールを投げるシーンで終わるのだが、それがすごく
良かった。映画の好きなラストシーンの上位に入るな、私の中で。
あ~この映画、映画館で観たかったなあ。すごく残念。私は華流マニアなので香港や
台湾の映画をよく観るのだが、その中でもとても好きな映画だ。切なくて、悲しくて、
それでいてキラキラして瑞々しい、そんな映画だった。
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彼が二度愛したS

2012-06-17 04:32:37 | 日記
2008年のアメリカ映画「彼が二度愛したS」。

真面目で孤独な会計士ジョナサン(ユアン・マクレガー)が、遊び人の弁護士ワイアット
(ヒュー・ジャックマン)と知り合ったことから、人生が変わっていく。
親しくなったある時ワイアットが携帯電話を間違えてしまい(わざとだが)、そのまま
出張に行ってしまったので、ジョナサンはワイアットの携帯を使うことになる。
その電話のために、ジョナサンは会員制の秘密クラブの存在を知ることになる。
名前も職業も明かさず、一夜限りの情事を楽しむクラブ。ジョナサンはそれにはまってしまう。
ある時やってきた女性を見てジョナサンは驚く。以前地下鉄の駅で見かけて、一目惚れ
していたイニシャルがSの女(ミシェル・ウイリアムズ)だった。
だがジョナサンは何者かに殴られ気を失ってしまい、目がさめた時には女はいなくなっており、
ベッドに血痕がついていた。ジョナサンはすぐに警察を呼ぶも、相手の名前も何も知らない
ことから、逆に容疑者扱いされてしまう。
これは、ワイアットが仕組んだ罠だったのだ。

ジョナサンはSを人質にとられて、ワイアットに脅迫される。会社の隠し金を自分の口座に
送金しろ、と。
この辺りだが、私はコンピューター犯罪が出てくるとさっぱりわからない。偽名で口座
なんて開設出来るの?その前に偽造パスポートって簡単に作れるものなの?
勝手にコンピューターで送金とかで出来るもんなの?
これはもう出来るものだと思って見るしかない。「ダイ・ハード4」もコンピューター犯罪の
話だったのでよくわからなかった。
そしてワイアットはまんまと2000万ドルを手に入れる。…はずだったのだが。
意外なラストで、割とおもしろかった。ただ、偽造パスポートのことといい、突っ込みどころは
いくつかあった。いくら好きな女とはいえ、名前も素性も知らない女のために、
ああまで必死になれるだろうか。
ラストは自分を失い他人になってしまって、これからどうやって生きていくつもりなのか。
(どうしてパスポートを元に戻さなかったのだろう?)
そして最後の最後のシーン、あれはいらないんじゃないの、と思った。
あとジョナサンと間違われて殺されてしまった管理人さんがあまりに気の毒。あの刑事が事件を
解決するのかなあ、と思ったけどそれもないし。
ちょっと不満な終わり方である。
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ル・アーヴルの靴みがき

2012-06-05 02:56:32 | 日記
フィンランド・フランス・ドイツ合作映画「ル・アーヴルの靴みがき」を観にいった。
ベトナム人の弟子と、ル・アーヴルの街角で靴みがきをして生計を立てているマルセル
(アンドレ・ウィルム)。その暮らしぶりは実に慎ましいものである。でも、彼には
愛する妻・アルレッティ(カティ・オウティネン)と愛犬との暮らしが幸せなのである。
そんな、「特に何もない日常」を送っていたマルセルに、ちょっとした事件が起きる。
ガボンからの不法入国者たちが警察に捕まるのだが、1人の少年が脱走し、偶然にも
マルセルと出会う。彼は少年を母親のいるロンドンに送ってやりたいと思い、資金集めに
奔走する。同じ頃、妻が体の不調を訴えて救急搬送され、そのまま入院することになる。
マルセルは妻のいない家に、少年をかくまう。マルセルと少年の絆は強くなっていくが、
妻はもう長くないと診断されてしまう。妻はそのことを夫には言わないで、と医者に頼む。

アキ・カウリスマキ監督作品。カウリスマキはずっと、社会の片隅で慎ましく生きる
人たちを描き続けている。今回はフランスが舞台であったものの、雰囲気はいつもの
フィンランド映画。この人の映画を観る度に、フィンランドの人ってこんなに貧しいの?
と思ってしまう。貧しいというのは違うかもしれない。とにかく質素なのだ。食べ物も、
生活ぶりも。ダイヤル式の電話や、レコード。本当にまだそんなものを使っているの
だろうか。それともカウリスマキの趣味で小道具に使っているのか。どっちなのかわか
らない。「街のあかり」でも、主人公の男性が自宅に女性を招待するのに、用意した
のはパンとお酒だけだった。
でも、この雰囲気が私はものすごく好きなのだ。裕福でない人々を、カウリスマキは
暖かい目で見て、描き出している。
この人の映画は、見る人によっては退屈だろうと思う。とにかくセリフが少なく、
登場人物たちの表情も薄い。これが大きな特徴なのだ。私は元々フランス映画とか、
静かな映画が好きなので、私には合っているのだが、テンポのいいアメリカ映画が
好きな人は、退屈で寝てしまうんじゃないだろうかと思う。

私が初めて観たカウリスマキ作品は「マッチ工場の少女」で、大きな衝撃を受けた。
感動というのではない。救いようのない物語だったから。なんと言えばいいのだろう、
「こんな映画作る人いるんだ!」という衝撃、だろうか。
映画の冒頭で、主人公の少女がベルトコンベアで運ばれてくるマッチの点検をしている。
無言で、無表情で。私はそのシーンにいっぺんで惹き込まれた。後にNHKのBSで放送
されたので録画して、何回観たことか。それ以来カウリスマキにはまった。残念なこと
にまだ全部の作品は観ていないのだが、絶対いつかDVDを揃えようと思っている。

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