猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

隣の影

2019-11-30 22:30:27 | 日記
2017年のアイスランド・デンマーク・ポーランド・ドイツ合作映画「隣の影」
を観にいった。

アイスランドの閑静な住宅地で暮らす老夫婦インガ(エッダ・ビヨルグヴィン
ズドッテル)とバルドウィン(シグルズール・シーグルヨンソン)は、ある日隣
家の中年夫婦エイビョルグ(セルマ・ビヨルンズドッテル)とコンラウズ(ソウ
ルステイン・バックマン)からクレームをつけられた。インガらの庭にそびえ
立つ大きな木が、いつもエイビョルグが日光浴をするポーチに影を落としてい
るのだ。それをきっかけにいがみ合うようになった2組の夫婦は、何の証拠も
ないのに身近で相次ぐ不審な出来事を全て相手の嫌がらせと思い込むようにな
る。その頃、妻アグネス(ラウラ・ヨハナ・ヨンズドッテル)と揉めてマンショ
ンを追い出され、インガらのもとに転がり込んできた息子アトリ(ステインソ
ウル・フロアル・ステインソウルソン)も、庭のテントで寝泊まりして隣人の
監視を手伝う羽目になる。やがてインガが可愛がっている飼い猫が失踪し、1
本の木を挟んで激しく対立している両家の人々は狂気に満ちた暴走を始める。

些細な隣人トラブルが恐ろしい事件へと発展していくサスペンス映画。老夫婦
インガとバルドウィンの家の庭に根づいた大きな木が日差しをさえぎり、隣家
のポーチに影がかかっている。その影にストレスをため込んだ隣人の中年夫婦
エイビョルグとコンラウズがクレームをつけたことが始まりだった。温厚なバ
ルドウィンは庭師を呼んで木の手入れをすることを約束するが、妻のインガは
「あの木には触らせない」と反対する。ある日バルドウィンが外出しようとす
ると、車のタイヤが全て何者かによってパンクさせられていた。インガは隣人
夫婦の仕業だと断定する。息子のアトリは近所の子供のいたずらではないかと
言うが、インガは聞き入れない。そして隣家でも庭の花壇が荒らされるという
出来事があり、エイビョルグは不信を募らせる。やがてインガは防犯カメラを
設置し、両家の対立はじわじわと深刻化していく。
ブラック・ユーモア・サスペンスみたいな物語かと思っていたが、ここまで常
軌を逸した展開になるとは。怖い映画だった。主要登場人物は3組の夫婦で、
彼らはそれぞれ問題を抱えている。インガとバルドウィンは長男の失踪(恐ら
く自殺している)、次男アトリとアグネスは夫婦不和、エイビョルグとコンラ
ウズは不妊の悩み。そこへ来て木の問題。そして老夫婦と中年夫婦の家で不審
なことが起こり、何の証拠もないのにお互い相手の仕業だと思い込み、2組の
夫婦は激しくいがみ合うようになってしまう。全てが悪い方向へ向いていくの
だ。アトリも自分の離婚問題や両親の隣人トラブルや兄の自殺で憔悴していく。
そしてインガのペットの猫が姿を消したことで、これも隣人の仕業だと思った
インガはとんでもない行動に出る。
この物語の1蕃のトラブルメーカーはインガだろう。隣人からクレームをつけ
られても木の手入れをさせず、隣人に失礼で挑発的な発言をし、長男の死を未
だ受け入れられずに誕生日のお祝いをしたりする。バルドウィンやアトリはそ
んなインガを持て余している。インガがもう少し謙虚だったら、優しさを持っ
ていたら、終盤の悲劇は起こらなかったはずだ。アトリの離婚問題にしても、
確かにアトリが悪いのだが、アグネスももう少しアトリの言い分を聞いてあげ
られなかったのだろうか、と思う。アトリが1蕃気の毒である。
エンドロールで「この映画で動物は傷つけてはいません」というテロップが流
れるのだが、それが救いか。しかし身も凍りつくようなラストシーンである。
とてもおもしろかった。




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絶対の愛

2019-11-26 21:45:59 | 日記
2006年の韓国・日本合作映画「絶対の愛」。

お互いに深く愛する恋人たち、セヒ(パク・チヨン)とジウ(ハ・ジョンウ)。
付き合い始めて2年を過ぎ、セヒは、ジウが自分に飽きて他の女性の元に
走ってしまうのではないかという不安を募らせていた。そんなある日、セ
ヒは突然姿を消してしまう。6ヵ月後、未だにセヒのことが忘れられない
ジウの前に、セヒとよく似た名前の女スェヒ(ソン・ヒョナ)が現れる。実
は、彼女は整形手術を施したセヒ本人だった。そうとは知らないジウは、
セヒへの想いを残しつつも、次第にスェヒに惹かれていく。

キム・ギドク監督が描く究極の愛の物語。セヒとジウは2年付き合ってい
るが、セヒはとても嫉妬深く、ジウが他の女性を見ただけでもヒステリッ
クに怒り出す。やがて、セヒはいずれジウが自分に飽きて他の女性の元へ
行ってしまうのではないかと不安になる。悩み抜いたセヒの取った行動は、
美容整形手術だった。セヒはジウの前から姿を消し、6ヵ月後にスェヒと
して現れる。突然失踪したセヒをジウは捜し回り、苦悩していたが、次第
にスェヒに惹かれていくのだった。
愛とは顔、容姿だけなのだろうかということを考えさせられた。セヒはよ
くジウに「ごめんね、いつも同じ顔で」と言っていた。どうしてそんなに
愛されていることに自信が持てなかったのだろうか。セヒはスェヒとして
ジウと付き合ううちに、ジウがまだセヒを想っていること、そしてセヒを
深く愛していたことを知り、ショックを受ける。セヒの嫉妬に困りながら
も、ジウはセヒを愛していたのだ。今度こそジウの絶対の愛を手に入れた
と思っていたスェヒは、打ちのめされる。もうセヒの顔には戻れない。
整形大国と言われる韓国ならではの映画だと思った。医師がセヒを思いと
どまらせるために、整形手術の映像(恐らく本物の)を見せるのだが、それ
でもセヒの決心は変わらなかった。私はその映像を見て怖くて仕方なかっ
た。顔を手術するなんて、そんなことがよく気軽にできるなあ、と思った。
美しくなったはずのスェヒは、セヒに嫉妬してしまうというおかしな事態
に陥ってしまうのだ。顔は変えても性格までは変えられず、スェヒもジウ
に対してとてもヒステリックな態度を取る。あんな女の人嫌だなあ。
ラストも衝撃的である。セヒは整形のループにはまってしまうのだろうか。
恋人の愛を信じきれなかった女の、痛々しく悲しい物語だった。


良かったらこちらもどうぞ。キム・ギドク監督作品です。
嘆きのピエタ
殺されたミンジュ
鰐ーワニー




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コーマ

2019-11-20 22:40:30 | 日記
1978年のアメリカ映画「コーマ」。

ボストン記念病院で外科医として働くスーザン(ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド)。
恋人の医師マーク(マイケル・ダグラス)も同じ病院に勤務している。大病院のた
め、非常に頻繁に手術が行われている。ある日スーザンの親友がごく平凡な中絶
手術を受けることになったが、彼女は手術の後覚醒せず、昏睡状態に陥ってしま
った。スーザンはひどくショックを受ける。同病院では、親友と同時期に右膝関
節の手術を受けた若い男性も、昏睡状態に陥るという事故が起きていた。同病院
において軽い手術を受けただけの患者が次々と植物状態になってしまうことにス
ーザンは疑念を抱き、調べてみることにした。まずは親友のカルテを見てみよう
と担当麻酔科医のジョージ(リップ・トーン)に頼むが、何故か激しく拒絶される。
スーザンはそれでも探り続けた。病院のコンピュータに入っているデータを調べ
てもらうと、同病院では手術中に昏睡状態に陥る事故が多数起きており、その患
者たちは皆若くて健康で、平凡で比較的簡単な手術を受けただけだということが
わかる。まもなく、スーザンは外科部長のハリス(リチャード・ウィドマーク)か
ら呼び出しを受け、無断で調査を行っていることをとがめられる。

病院を舞台にした医療サスペンス映画。41年前の作品なので、さすがに映像は
古いのだが、物語は現代でも充分通用する興味深いものだった。「コーマ」とは
昏睡状態のことである。大病院に勤務する外科医のスーザンは、親友が簡単な中
絶手術を受けた後に昏睡状態に陥ってしまい、同じ時期にやはり簡単な関節の手
術を受けた患者が昏睡状態になってしまったことに疑念を抱く。恋人のマークに
相談するが、心配することはないと取り合ってくれない。スーザンは単独で調べ
始めるが、その病院では比較的簡単な手術を受けた患者が多数昏睡状態に陥って
いることがわかる。そして外科部長のハリスから勝手に調査を行っていることを
注意されるが、スーザンは調査をやめない。やがて、昏睡状態になった患者の手
術は全て第8手術室で行われていることを知る。そしてスーザンは何者かに命を
狙われ始める。
スーザンの意志の強さ、行動力、危険回避能力がすごい。スカート姿でいろんな
ところに忍び込んだり、逃げ回ったり、そこまでやるかというくらいである。男
に頼らない強い女医をジュヌヴィエーヴ・ビジョルドが熱演している。恋人のマ
ークはスーザンから病院が怪しいと打ち明けられても心配しすぎだと言って取り
合わない。そしてスーザンが勝手に動き回ることを良く思っていない。もしかす
るとマークはスーザンの敵なのではないかと思わせられ、終盤までわからないの
はおもしろかった。
とにかくハラハラ、ドキドキする映画である。ある研究所が登場するが、そこの
清潔で無機質で近未来的な造りもかえって不気味で良かった。そしてその中で行
われている非人道的な行為はゾッとした。医療サスペンス映画はいくつか観たこ
とがあるが、どれも普遍的なテーマを持っているように思う。いつ観ても色あせ
ることなく考えさせられる。この映画も良くできていたと思う。おもしろかった。




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グレタ GRETA

2019-11-14 22:29:32 | 日記
2018年のアイルランド・アメリカ合作映画「グレタ GRETA」を観にいった。

ニューヨークの高級レストランでウエイトレスとして働くフランシス(クロエ・
グレース・モレッツ)は、帰宅中の地下鉄で誰かが置き忘れたバッグを見つける。
そのバッグの持ち主は、都会の片隅でひっそりと暮らす未亡人グレタ(イザベル
・ユペール)で、グレタの家までバッグを届けたフランシスは、今は亡き母への
愛情を重ねていく。年の離れた友人として親密に付き合うようになる2人だった
が、グレタのフランシスへの行動は日に日にエスカレートし、ストーカーのよう
な付きまといへと発展していく。グレタの奇行に怯えるフランシスは親友でルー
ムメイトのエリカ(マイカ・モンロー)と共に恐ろしい出来事に巻き込まれていく。

サイコ・スリラー映画で、とてもおもしろかった。若い女性フランシスは、地下
鉄の中で誰かが忘れていったバッグを見つける。バッグの中にはIDカードも入
っており、フランシスは持ち主のところまで届けることにした。持ち主は中年を
過ぎた女性グレタ。グレタは夫を亡くし、娘はパリの国立音楽院に行っており、
1人暮らしだった。フランシスは母親を亡くしたばかりで、2人はお互いの孤独
を埋め合うように親しくなっていく。
割と早い段階でグレタの異常性が明らかになるのだが、中だるみすることなく一
気に観られた。よくあるストーカーものの映画かもしれないが、とても不気味で
怖かったのは、フランスの大女優イザベル・ユペールの演技によるものだろう。
時々無表情になるその顔の迫力はさすが。クロエ・グレース・モレッツの怯えた
演技も良かった。フランシスは親切心から落とし物のバッグを届けただけなのに、
あんな恐怖が待っていようとは。グレタは蜘蛛の巣のように罠を張り、フランシ
スはその罠にはまってしまったのだ。フランシスの親友エリカは最初から2人の
関係を変だと思い、あまりグレタと親しくしない方がいいと忠告するのだが、フ
ランシスは聞かなかった。
フランシスの勤めているレストランの外から、グレタがじっとフランシスを見つ
めているシーンは怖かった。フランシスは警察に連絡をするが、実害が出ていな
いからどうにもできないと言われる。だがグレタの行動はエスカレートしていき、
フランシスを恐怖のどん底に突き落とすのである。サイコパスというのは本当に
恐ろしいものだ。最初にフランシスがグレタの家を訪れた時、隣人の騒音が聞こ
えるのだが、その音の正体が終盤でわかった時はゾッとした。おもしろい映画だ
った。




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光のほうへ

2019-11-09 22:37:01 | 日記
2010年のデンマーク・スウェーデン合作映画「光のほうへ」。

アルコール依存症の母親から育児放棄された兄弟は、年の離れた赤ん坊の弟
の面倒を見ている。兄弟は赤ん坊のためにミルクを万引きし、洗礼のまねご
とをするなど、赤ん坊を心からかわいがっていた。ところがある日、赤ん坊
は突然死してしまい、兄弟は深い心の傷を負う。月日は流れ、大人になった
兄ニック(ヤコブ・セーダーグレン)は、恋人と別れたショックから行きずり
の男に暴力を振るい、刑務所に入っていたが、3ヵ月前に出所し、シェルタ
ー(臨時宿泊施設)で暮らしていた。一方、ニックの弟(ペーター・プラウボ
ー)は2年前に妻を交通事故で亡くし、幼い息子マーティン(グスタフ・フィ
ッシェル・キャエルフ)を1人で育てていた。だが麻薬常習者であるために、
生活は困窮を極めていた。そんなある日、母親の死をきっかけに兄弟は再会
し、再び気持ちを通わせようとする。

偽りなき者」のトマス・ヴィンターベア監督のヒューマン・ドラマ。とて
もかわいそうな物語だった。アルコール依存症の母親から育児放棄され、赤
ん坊の弟をかわいがって育てていた。が、弟は死んでしまう。それから兄弟
が大人になるまでの過程が描かれていないので、どんな人生を歩んできたの
かはわからない。よくちゃんと大人になれたものだ。兄のニックは刑務所帰
りでシェルターで暮らしている。しかし、別れた恋人の兄が同じシェルター
にいる女性を殺してしまい、ニックが捕まってしまう。そしてニックの弟は
生活のために麻薬の売人をすることになり、順調にさばいていたが、やはり
捕まってしまう。
ニックと弟が子供だった時、手を差し伸べてくれる人はいなかったのか。そ
うすれば兄弟の大人になってからの不幸もなかったかもしれないのに。福祉
大国の北欧でもこんな闇はあるのか。ニックと弟は怒りや悲しみ、苦しみに
もがきながら大人になっていったのだろう。兄弟にとって赤ん坊の死はとて
も辛いものだった。
刑務所の中庭で兄弟が再会する場面はとても印象深い。弟はニックに、「あ
の頃俺たちは悪くなかった。いい兄貴だったよ。俺も頑張った」と、兄を慕
う言葉と、別れの言葉を口にするが、その場面が胸を打った。ラストは少し
だけ救いがあるが、とても悲しくやりきれない物語だった。



今日はベルの16歳の誕生日。人懐こくてかわいいベル。これからも元気でね。
長生きしてね。














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