猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

ふたりのマエストロ

2024-05-19 21:51:51 | 日記
2022年のフランス映画「ふたりのマエストロ」。

ドニ・デュマール(イヴァン・アタル)は指揮者としてパリのクラ
シック界で脚光を浴びているが、彼の父でベテラン指揮者のフラ
ンソワ(ピエール・アルディティ)は息子の活躍を素直に喜べずに
いた。ある時、フランソワの元にミラノ・スカラ座から音楽監督
就任の依頼の電話がかかるが、その一方でドニはスカラ座の総裁
から呼び出され、フランソワへの依頼がドニへの依頼の誤りだっ
たと知らされる。夢にまで見ていたオファーに浮き足立つ父に、
その真実をどう伝えるべきか、ドニは苦悩する。

指揮者の父子が最悪の依頼間違いをきっかけに互いの心と向き合
う姿を描いた人間ドラマ。パリの華やかなクラシック界でそれぞ
れ指揮者として活躍する父フランソワと息子ドニ。2人の間には
ライバル意識があり、ドニが権威あるヴィクトワール賞を受賞し
ても、フランソワは素直に喜ぶことはなかった。ある日フランソ
ワの元に、世界最高峰のミラノ・スカラ座の音楽監督への就任を
依頼する電話がかかってくる。ドニは父の成功を素直に喜べずに
いたが、翌日、今度はドニがスカラ座総裁から呼び出しを受ける。
実は就任を依頼されたのはドニで、フランソワへの連絡は総裁の
秘書のミスだったのだ。父に真実を伝えなければならずドニは苦
悩する。
とてもフランス的な物語。同じ指揮者である父と息子がライバル
意識を持っていたり、ドニには恋人がいるが元妻がマネージャー
を務めており、仕事に関しては元妻を信頼していたりと、フラン
スの個人主義をよく表していると思った。ドニの息子のマチュー
(ニルス・オトナン=ジラール)も父と祖父が指揮者で自らもピア
ノを習っているのに、「僕は音楽はやらないよ。料理の道へ行く
」と言うところなど、フランスらしいサバサバさが窺える。
そしてドニの両親は未だに結婚していないのだ。これもフランス
の「事実婚で事足りる」という社会的、文化的な面を表していて
興味深い。フランソワはスカラ座の話が来た時点で妻に「結婚し
て一緒にミラノに行こう」とプロポーズするのだが。とにかく色
んなところがフランス的でおもしろい。
クラシックの名曲がたくさん聴けるのもいい。それだけでも観る
価値はある。ワンシーンだけだが、ドニがパソコンで小澤征爾の
指揮を観ているシーンも嬉しい。1つ気になったのが、ドニは恋
人と一緒にスカラ座へ行くが、恋人のヴァイオリンの腕前で大丈
夫なのだろうかというところ。あまりうまくなかったように見受
けられるのだが…。ラストは圧巻で感動的。大団円というのはこ
ういうのを言うのだろう。とてもいい映画だった。



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幼い依頼人

2024-05-14 21:23:07 | 日記
2019年の韓国映画「幼い依頼人」。

ロースクールを卒業した後、就職に失敗し児童福祉館に臨時で
就職した弁護士のジョンヨプ(イ・ドンフィ)は、継母(ユソン)か
ら虐待されている姉のダビン(チェ・ミョンビン)と弟のミンジュ
ン(イ・ジュウォン)に出会う。その後法律事務所に就職した彼は、
ダビンの鼓膜が破れ、更にミンジュンが死んだことを知る。ダビ
ンが弟の殺害を自白したことに衝撃を受けたジョンヨプは、彼女
の弁護を引き受けることにする。

2013年に韓国で実際に起こった漆谷(チルゴク)継母児童虐待死
亡事件を基にしたサスペンス。ロースクールを卒業して出世の道
を突き進むはずだったジョンヨプは何度も就職に失敗し、姉の勧
めで臨時に児童福祉館に就職する。ある日、継母から虐待を受け
ている10歳のダビンと7歳のミンジュンの姉弟に出会うが、さほ
ど深刻に考えていなかった彼は、また来るという言葉だけを残し
て去る。数日後、法律事務所に就職したジョンヨプは電話を受け
ダビンの鼓膜が破れたことを知る。ジョンヨプは継母からダビン
を引き離そうとするが、かえって誘拐犯扱いをされ、その後弟ミ
ンジュンの死に加え殺人の被疑者とされたダビンを見て衝撃を受
ける。ジョンヨプは真実を明らかにするため、ダビンの弁護士に
なることを決意する。
世界中のあちこちで起きている児童虐待事件。何故10歳の少女
は弟殺害で容疑者にならなければならなかったのか。ジュンヨプ
は法律事務所に就職し損ねたため、児童福祉館であまりやる気も
ないまま働いていた。そんな時父親の後妻から虐待を受けている
姉弟と知り合う。ジュンヨプは携帯電話の番号を渡して、何かあ
ったら電話するように言っただけだった。しかし事態はジュンヨ
プが考えているより深刻だった。
姉弟が継母にひどい虐待を受けていることを知ったジュンヨプは、
彼らを助けるために奔走するが、弟のミンジュンは死んでしまい、
姉のダビンが被疑者となってしまう。ダビンが自供したと報道さ
れるが、ジョンヨプは信じられない。ニュースなどでよく韓国で
は容疑者をマスコミが取り囲んで取材しているシーンを見るが、
10歳の子供にまでそれをするのだろうか。マスコミは「ダビン
さん、何故弟を殺したんですか!」と叫ぶ。いくら容疑者とはい
え小学生にである。
ダビンのクラスメイトで同じアパートに住む少年・ムンジョン(
ソ・ジョンヨン)の存在がいい。彼はダビンが継母から暴力を受
けている時ジョンヨプに電話をかけ、「ダビンが殴られてる!」
と伝える。ジュンヨプはダビンの家に走り、ダビンを助け出して
姉の家に避難させる。その後をムンジョンが泣きながらついてく
るのだが、そのシーンは胸に迫るものがあった。それにムンジョ
ンはダビンが無実である証拠を持っていたのだ。
ジョンヨプ役のイ・ドンフィは眼鏡が似合って、ハンサム過ぎな
いのがいい。そしてダビン役やムンジョン役の子役たちがとても
うまい。更に継母役のユソンの憎たらしいこと。あんなに怖い顔
で怒鳴られたら、子供たちは恐ろしいだろう。継母は本当にあん
な人だったのだろうな、と思った。悲しく、やり切れない映画だ
が、観る価値は充分にあると思う。イ・ドンフィの走る姿が印象
に残っている。


アフタヌーンティーに行きました。大変おいしゅうございました。

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マンティコア 怪物

2024-05-09 21:11:28 | 日記
2022年のスペイン・エストニア合作映画「マンティコア 怪物」
を観に行った。

ゲームデザイナーとしてモンスターのキャラクターを創作している
青年・フリアン(ナチョ・サンチェス)は、パーティーで美術史を学
ぶディアナ(ゾーイ・ステイン)と出会い、ミステリアスな彼女に惹
かれていく。ある日、隣の家から助けを呼ぶ子供の声が。見ると火
の手が上がり、閉じ込められている少年・クリスチャン(アルバロ
・サンス・ロドリゲス)を救ったフリアンだったが、以来パニック
発作に悩まされるようになり、やがて彼は自身の抱える秘密が原因
でマンティコア(怪物)を作り出してしまう。

マジカル・ガール」のカルロス・ベルムト監督が人間の心の闇を
描いた心理サスペンス。「マジカル・ガール」が非常におもしろか
ったので、期待して観に行ったが、やはりとてもおもしろかった。
ゲームデザイナーの青年・フリアンは同僚の誕生パーティーで美術
史を学んでいるというディアナと出会う。聡明でミステリアスな彼
女にフリアンは惹かれていく。ある日フリアンは自宅で作業中に隣
の家から火があがっているのを見る。助けを呼ぶ子供の声を聞いて、
夢中でクリスチャンというその少年を助ける。煙を吸ったフリアン
は救急隊に診察され、大丈夫だと言われるが、夜になって呼吸が苦
しくなり病院へ行くが失神してしまう。医師からはパニック発作だ
と言われ抗不安薬を出される。
フリアンとディアナは近づいていく。ディアナは2年前に脳卒中を
起こした父親の介護をしていると言う。しかしディアナがフリアン
の家を訪れている時、父親が亡くなったという電話が入る。フリア
ンは父親の葬儀に顔を出し、ディアナから感謝される。フリアンと
ディアナは仲良くなっていくが、フリアンはある秘密を抱えており、
悩んでいた。その秘密は普段は表面に出さないように隠していたが、
火事で吸った煙のようにフリアンの心の中でくすぶっていた。
ディアナの容姿があまりかわいくないのだが、これには理由があっ
て、あーそういうことなのねと納得させられる。フリアンの秘密は
反社会的だが、それでもフリアンがかわいそうに思えてくる。彼は
一線を超えまいと必死なのだ。そしてディアナの方も何だかおかし
い。出会い方からして不自然だし、まさか全部ディアナが仕組んだ
こと、と考えるには無理があるか。物理的に不可能だ。「マジカル
・ガール」でもよくわからないシーンがいくつかあったが、この監
督はそういう作風なのだろう。
そして予想だにしていなかった驚きのラスト。ディアナも秘密を抱
えていたのだ。それはフリアンの秘密と似て非なるものだ。でも同
じ次元のものかもしれない。ラストシーンの後のフリアンとディア
ナの行く末を考えると、ゾッとする気もするしホッとする気もする
し、複雑である。これはとても怖い映画なのかもしれない。カルロ
ス・ベルムト監督は大変な日本オタクで、「マジカル・ガール」は
日本人が観ると楽しめるはずだ(コメディではないが)。この「マン
ティコア 怪物」にも寿司だのウナギだの伊藤潤二の漫画だのが登
場し、日本オタクぶりは健在。スペインの人が伊藤潤二を知ってい
るんだなあ。



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アンダーカレント

2024-05-04 21:49:20 | 日記
2023年の日本映画「アンダーカレント」。

かなえ(真木よう子)は稼業の銭湯を継いで、夫・悟(永山瑛太)と順風
満帆な日々を送っていたが、悟が突然失踪してしまう。かなえは途方
に暮れるが、一時的に休業していた銭湯を再開させる。それから数日
後、かなえは銭湯組合を通じて訪ねてきた堀(井浦新)という男を住み
込みで雇うことにする。探偵の山崎(リリー・フランキー)と共に悟を
捜しながら、堀との日々に心地よさを感じるかなえ。しかしある出来
事をきっかけに、かなえ、悟、堀が心の奥底に秘めていたものが浮か
び上がる。

豊田徹也氏の漫画を「窓辺にて」の今泉力哉監督が実写映画化した人
間ドラマ。かなえは父が亡くなり、稼業の銭湯を継ぎ、夫・悟と幸せ
な日々を送っていた。ところがある日、悟が突然失踪してしまう。か
なえは途方に暮れながらも、一時休業していた銭湯の営業をどうにか
再開させる。数日後、堀という謎の男が銭湯組合の紹介を通じて現れ
る。かなえは堀の履歴書を見て、いくつもの資格を持っていることに
驚き、銭湯ではなく他のところで働くことを勧めるが、堀は是非雇っ
て欲しいと言う。住み込みを希望されるが、住み込みを雇っていたの
は昔のことであり今は部屋がないと言うと、アパートが見つかるまで
休憩室に泊めて欲しいと言い、かなえは堀を雇うことになる。
かなえは友人に紹介された山崎といううさんくさい探偵に悟の調査を
依頼する。それによって見えてきたことは、悟の様々な嘘だった。静
かに進んでいく映画である。かなえ、悟、堀はそれぞれに隠している
ことがある。かなえの場合は隠しているというより、あまりにも辛い
出来事だったために自分で記憶を消していたというのが正しいだろう。
そういうことってあると思う。
悟は虚言癖の持ち主だった。嘘に嘘を重ね、嘘が気づかれそうになる
とその相手とは関係を切る、という人生を送っていた。虚言癖の人っ
てそうなのだろうな、と思った。マズくなったら関係を切るしかない
だろう。悟のしたことは結婚詐欺に近いのではないかと思ったが、金
を騙し取った訳ではないので詐欺には当たらないのだろうか。でもか
なえを騙して結婚し、ある日突然失踪なんてひどすぎると思う。かな
えは「悟にとって私は何でも話せる相手ではなかったんだ」というこ
とを知り、落ち込む姿はかわいそうだった。
真木よう子と井浦新の演技が良かった。リリー・フランキーのうさん
くささもいい。堀とタバコ屋のおじいさんとの会話はとても良かった。
けれども堀の正体はわかるものの、何故かなえに近づいたのかが今ひ
とつわからない。恨みという訳ではなさそうだし、とにかく会いたか
ったのだろうか。いい映画だと思うが、この物語で143分は長すぎる
と思った。ラストシーンはほっとするが。「アンダーカレント」とは
「1. 下層の水流、底流 2. (表面の思想や感情と矛盾する)暗流」と
いう意味だそうだ。物語に合ったタイトルだと思った。



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