ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

家へ帰ろう

2018-12-22 11:17:33 | あ行

コミカルに始まりつつ

大事な重みが残る作品。

 

「家へ帰ろう」70点★★★★

 

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アルゼンチンに住む88歳のアブラハム(ミゲル・アンヘル・ソラ)は

長年、仕立て屋をしてきた。

 

子どもたちや孫に囲まれ、幸せそうな彼だが

実は明日から老人ホームに入ることになっていた。

 

その夜、アブラハムは1着のスーツを持って

家を抜け出す。

 

向かうはポーランド。

70年以上合っていない親友に、スーツを渡す目的だ。

だが、彼の行く手には困難が待ち受けていた。

彼はパリからドイツを通らずに、ポーランドに行きたいと言い張り――?!

 

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出だしはコミカルな家族喜劇に思わせて

いやいや歴史に立ち返り、重厚なものが残る作品でした。

 

冒頭、食えない孫とやり合う頑固じいさんのやりとりにプッとするんですよ。

そして明日はじいさん、老人ホームに入居――なのに

なんと、夜中に逃亡!

 

行き先はアルゼンチンからポーランド・・・・・・と

このへんで映画の事情とテーマがわかってくる。

 

 

主人公アブラハムはドイツの土地を踏むことを拒み、

ドイツ語の会話を聴いただけでパニックのようになるんですよ。

 

その傷の痛み、

歴史の重みに心が固まる。

 

それでも端々に茶目っ気とユーモア、色気があって

まあ、行く先々で必ず美女に助けられる展開にニヤリともする。

 

1969年生まれの監督の

祖父の歴史がベースにあるそう。

過去が人に負わせる傷の深さを思わずにいられません。

 

★12/22(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「家へ帰ろう」公式サイト

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私は、マリア・カラス

2018-12-21 00:43:57 | わ行

この一人称スタイルは、

かなり勇気のいる決断だったと思う。

 

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「私は、マリア・カラス」72点★★★★

 

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名前だけは誰もが知っている

比類なきオペラ歌手、マリア・カラスのドキュメンタリー。

 

トム・ヴォルフ監督は5年にわたるリサーチで

大勢の人に取材をし、素材を集めたそうです。

 

しかし

そうした関係者の証言インタビューは一切使わず

本人のインタビュー映像や未完の自伝、手紙の朗読

(女優ファニー・アルダンによるこの朗読がまた素晴らしい!)という、

一人称スタイルで、この映画をまとめた。

 

それが、実に潔く、効果的なんですね。

 

 

オペラ悲劇も顔負けな波乱の人生を送ったマリア・カラス。

スキャンダルや公演キャンセルなどでマスコミに叩かれもした彼女が

「どういう人だったのか」。

それが、この方法によって自然に感じとれる。

 

 

インタビューに実に正直に答える様子、

常に傍らに犬がいる動物好きな素顔、

オナシス氏への一途な愛と、それ故に、裏切られたときの失望――

 

世紀のディーバを身近な「人」として、感じられるのが

この映画のおもしろさなんです。

 

もちろん

プライベート映像も含め、歌唱の映像もたっぷりで

その歌声の変遷もよくわかる。

 

それにしても稀代のモテ男・オナシス氏にインタビューしてみたくなりましたよ。

「なぜ、あのときジャッキーを選んだのですか?」って。

 

なので、その質問を来週発売の「AERA」12/24発売号でインタビューさせていただいた

トム・ヴォルフ監督にぶつけてみました。

その答えは?

ぜひ、誌面をご覧ください~

 

★12/21(金)から全国で公開。

「私は、マリア・カラス」公式サイト

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シシリアン・ゴースト・ストーリー

2018-12-20 22:30:06 | さ行

これは、観てよかった! 

「シシリアン・ゴースト・ストーリー」76点★★★★

 

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シチリアの小さな村。

ルナ(ユリア・イェドリコヴスカ)は密かに

同級生のジュゼッペ(ガエターノ・フェルナンデス)に恋をしている。

 

ある放課後、ルナはジュゼッペにラブレターを渡し、

ジュゼッペは乗馬の練習に彼女を誘う。

二人の気持ちは、つかの間、通じ合った。

 

が、その直後、ジュゼッペは突然姿を消してしまう。

 

そしてなぜか両親も、彼の家族も彼の失踪について口を閉ざす。

いったい、何が起こったのか――?

ルナはジュゼッペを探そうと決意するが――。

 

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1993年、シチリアで実際に起きた事件を基にした

美しく哀しいラブストーリー。

 

それはひどく残酷な事件なのだけれど

監督コンビはその事件を、愛と魂のストーリーに昇華し、

現実の「無念」を晴らすかのように

この世に、留めたのだと思う。

 

洞窟から滴る水滴が

少年の飲み水につながる印象的なオープニングから、

「グレート・ビューティ/追憶のローマ」(13年)の名カメラマン、ルカ・ビガッツィによる

(ワシ、これ映画はダメだったけど、カメラは素晴らしかった!笑)

映像は美しく、不思議に幻想的で

 

自然や動物たちなどを象徴的に描き、

「ああ、こういうことなのか」とすべて腑に落ちて行く。

 

悲惨な現実を

大きな自然や大地の力で洗い流すようでもあり。

 

少年少女の無垢な愛が

汚れた世に、ひとしずくの清らかなエッセンスをぽとりと落とす――

そんな感じがしました。

 

奇しくも劇中で一人の少年が神話の「パン」の名を口にするように

「パンズ・ラビリンス」に通じる鑑賞後感があったなあ。

 

★12/22(土)から新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「シシリアン・ゴースト・ストーリー」公式サイト

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アリー/スター誕生

2018-12-16 23:22:38 | あ行

すごい迫力。音響のいい劇場でぜひ!

 

「アリー/スター誕生」73点★★★★

 

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歌手を夢見るアリー(レディー・ガガ)は

しかしチャンスに恵まれず、ウェイトレスとして働いている。

小さなバーでときおり歌うステージが

彼女の精一杯だった。

 

あるとき、彼女が歌う店に偶然

国民的人気者のミュージシャン、ジャクソン(ブラッドリー・クーパー)がやってくる。

 

彼女の歌声にノックアウトされた彼は

アリーにチャンスを与えようとするのだが――?!

 

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レディー・ガガ、歌が圧倒的なのは当然だけど

演技も十分説得力あり!

 

そしてブラッドリー・クーパー、演技は当然だけど

歌、うますぎでしょ!(笑)

この「プロ同士」のガチンコが、いい!と感心しました。

 

久々に王道なスター誕生ドラマで、

実際ストーリー自体はもう何度もリメークされているモチーフだそう。

 

でも

歌手を夢見る女性が、ある男性と出会い、

その才能を見出され、スターダムにのし上がっていく――という構造は

どうしたっておもしろいし、それをしっかり現代的にしてる。

 

ヒロインのアリーをガガ自身の人生にうまーくリンクさせてて

「スターになるには、鼻がでかすぎるって言われるの」とか

うまーく本人ネタを取り入れて(笑)

本人も演じやすかったんでしょうね。

 

Netflixでガガのドキュメンタリーを見たけど

スターの舞台裏にはけっこう近いものがあった。

 

そして

どうオチをつけるかなと思ったけど

うん、これしかない、といえばないなあと。

 

それに、冒頭

ブラッドリー・クーパーがステージに立つまでを追うカメラワークにはじまり

全体的に、観客自身がまさにスターとなって舞台に立つような目線で撮られた

見せ方の工夫がすごくおもしろい。

 

プラス

役者の歌唱が響く点、エモーショナル度、と

ワシ的には「ボヘミアン・ラプソディ」よりこちらに軍配でした。

 

テイラー・スウィフトじゃ、このバタ臭さ、泥臭さは出ないんだよねえ。

(テイラー・スウィフト好きだけど

 

★12/21(金)から全国で公開。

「アリー/スター誕生」公式サイト

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マイ・サンシャイン

2018-12-14 23:35:22 | ま行

「裸足の季節」監督の新作。

いわゆるイイ話、とか予想するとまったく超えてきます(笑)

 

「マイ・サンシャイン」71点★★★★

 

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1991年、LA・サウスセントラル。

15歳のアフリカ系アメリカ人少女ラターシャが

食料品店で韓国系女性店主に撃ち殺される事件が起きた。

 

彼女が万引きしたと勘違いした店主に

背後から撃たれたのだ。

 

だが裁判の結果、店主には保護観察と罰金500ドルという

軽い判決が出る。

l地元民たちの怒りが高まり出していた。

 

そんな街で

ミリ―(ハル・ベリー)は大勢の子どもと暮らしていた。

彼女はさまざまな理由で親と暮らせない子どもたちを保護し、育てているのだ。

 

ミリ―の隣人オビー(ダニエル・クレイグ)は

やかましい一家に文句を言いながら、彼らを見守っている。

 

そんななか、街の混乱はやがて

ミリ―の家族にも影響を及ぼしていく――。

 

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 「裸足の季節」で鮮烈長編デビューを飾った

トルコ生まれのデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督の新作。

 

1992年、ロス暴動が起きる前。

大勢の子を育てる黒人女性(ハル・ベリー)と

いがみ合う隣人(ダニエル・クレイグ)の物語。

 

おもしろい・・・・・・んですが、なんとも言えなすぎる(苦笑)。

文法が違いすぎて、簡単には理解不可能というのでしょうか

普通に想像する「イイ話」とか

予想を全然超えてくるんですよねえ(笑)

 

冒頭、15歳のアフリカ系アメリカ人少女ラターシャが

謝って射殺された事件からはじまり、

 

ミリーがなんでこんなに大家族なのか?

憎みあってた隣人(ダニエル・クレイグ)がなぜ、子どもたちを家に入れたのか?とか

あまり「段階を踏まず」にトントンと進むので

ワンシーンまるまる飛んでしまったかのような唐突さがあったりする。

 

 

それでも、92年のロス暴動がなぜ沸点に達したのか、

あのとき何があったのか?の臨場感は抜群。

 

その騒乱のなかで

たぎるような人間の生や勢いが、生々しく濃縮されていて

とても87分とは思えない濃さがありました。

 

文法とかよりも

「心が動いたそのとき」の感覚を大事に表現したい。

そんな感じかなと思いました。

 

★12/15(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか全国公開。

「マイ・サンシャイン」公式サイト

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