ここに大日下王(おほくさかのみこ)、【四拝(よたびおろが)みて】まをさく
「もしかかる大命も有らむかと疑(おも)へる故に、外(と)にも出さず置きつ。これ恐(かしこ)し。大命のまにまに奉進(たてまつ)らむ」とまをしき
しかれども【言をもちて白す事は、其れ礼无(あやな)し】と思ひて、即ち其の妹の【礼物(あやしろ)】として【押木の玉蘰(たまかづら)】を持たしめて貢献(たてまつ)りき
根臣(ねのおみ)、即ち其の礼物の玉蘰を盗み取りて、大日下王を【しこぢて】いはく
「大日下王は勅命(おほみこと)を受けずて、『己が妹や、【等し族(うがら)】の【下席(したむしろ)】にならむ』とまをして、横刀(たち)の【手上(たがみ)】を取りて怒りましき」
といひき
故、天皇大(いた)く怨みまして、大日下王を殺して、其の王の【嫡妻(むかひめ)】【長田大郎女(ながたのおほいらつめ)】を取り持ち来て、皇后(おほきさき)としたまひき
★四拝(よたびおろが)みて
※神を拝む時と同じ作法
※皇太神宮儀式帳にも四拝・八拝のことが見える
★言を持ちて白する事は、其れ礼无(あやな)し
※口頭だけでその趣を奏上するのは失礼である
★礼物(あやしろ)
敬意を表すために贈る品物
★押木の玉蘰(たまかづら)
木の枝の形をした立飾りのある、金や金銅製の冠で、それに玉をはめこんだもの
★しこぢて
悪く告げる、そしる
★等し族(うがら)
同族、親族
★下席(したむしろ)
下敷き、妃になること
★手上(たがみ)
手で握る所、柄(つか)
★嫡妻(むかひめ)
正妻、本妻
★長田大郎女(ながたのおおいらつめ)
允恭天皇の系譜に、穴穂命の同母姉として見えるが、これを皇后とするのは、同母姉弟の結婚になり、軽王と軽大郎女の場合のように許されない関係である
安康紀には、中し姫
雄略前紀には履中天皇の皇女、「長田大娘」とある
■大日下王は四度も拝むという丁重な礼を尽くして
「もしかしたら、このような勅命もあるかもしれないと、妹を外にも出さないで大事にしていました。誠に恐れ多いことです。勅命に従って妹を差し上げます」と申し上げた
言葉だけで承諾の返事を奏上することは無礼であると思って、すぐに妹からの贈物として、押木の玉蘰という冠を、根臣に持たせて献上した
ところが根臣はその玉蘰を横取りして、大日下王のことを偽って告げ口した
「大日下王は勅命を受けないで、『私の妹を同族の下敷きになどさせるものか』と申して太刀の柄を握って怒りました」と奏上した
天皇はひどくお恨みになって、大日下王を殺してしまい、その王の正妻の長田大郎女(なかたのおおいらつめ)を奪って来て皇后になさった
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