允恭天皇、崩(かむあが)りましし後、木梨之軽太子(きなしのかるのひつぎのみこ)、日継を知らしめすに定まれるを、未(いま)だ位につきたまはざりし間(ほど)に、其の【いろ妹(も)】・軽大郎女(かるのおほいらつめ)に【奸(たは)けて】歌ひたまはく
「【あしひきの】
山田を作り
【山高み】
【下樋(したび)を走(わし)せ】
【下どひに】
我がとふ妹(いも)を
下泣きに
我が泣く妻を
今夜(こぞ)こそは
【安く肌触れ】」
と歌ひたまひき
こは【志良宣歌(しらげうた)】なり。又歌ひたまはく
「笹葉に
打つやあられの
【たしだしに】
【率(い)寝てむ】後は
【人は離(か)ゆ】とも
愛(うるは)しと
さ寝しさ寝てば
【刈薦(かりこも)の】
【乱れば乱れ】
さ寝しさ寝てば」
と歌ひたまひき
こは【夷振(ひなぶり)】の上歌なり
★いろ妹(も)
同母妹
★奸(たは)けて
不倫な性関係を結ぶ、密通する
★あしひきの
山の枕詞
★山高み
山が高いので
★下樋(したび)を走(わし)せ
※したび→配水や排水のために地中
に埋めた木の管
※わしせ→走らせる、通す
※ひそかに妻を慕う心に通じる寄物表現
★下どひに
ひそかに女のもとに通うこと
★安く肌触れ
上代歌謡共通の官能的語句
★志良宣歌(しらげうた)
尻上げ歌
終句を尻上がりに歌う歌謡法
★だしだしに
あられの降る音
★率(い)寝てむ
共寝
★人は離(か)ゆ
かゆ→離れる
人→百官及び天下の人をさす説もあるかわ、相手の女、軽大郎女と解釈
★刈薦(かりこも)の
刈りとった薦(こも)は乱れやすいことから「乱る」にかかる枕詞
★乱れば乱れ
※二人の間がばらばらに離れるなら離れよ説
※心の乱れ説
★夷振(ひなぶり)の上歌
夷振り→田舎風の歌いぶりの歌曲
上歌→調子を上げて歌う
■允恭天皇がお亡くなりになった後、皇太子・木梨之軽王(きなしのかるのみこ)は皇位につくことが決まっていましたが、皇位につくまでの間に、その同母妹の軽大郎女(かるのおおいらつめ)と密通して
歌われた
「あしひきの、山田を作り、山が高いので、水を引くための下樋を走らせた。それと同じく、ひそかに私が言い寄る妹に、人目を忍んで私が慕い、泣く妻に、今夜こそは心安らかに、その膚に触れることよ」
これは志良宣歌(しらげうた)という歌曲である
また歌われた
「笹の葉をうつ、あられの音が、たしだしと聞こえるが、そのように確かに共寝をした後は、あなたが私から離れてしまったとしてもかまわないよ。愛しいままに寝さえしたならば、刈薦(かりこも)のように、ばらばらに離れるのなら、離れてもいいよ、寝さえしたならば」
これは夷振(ひなぶり)という歌曲の上歌である
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