むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所 フィリピンの米軍

2019-04-08 17:40:22 | 小説

 昭和二三年四月一日。マニラにある新築ホテルのロビーで、台湾人の資産家が、なに者かに剣で首を斬られて死ぬという事件が起きる。目撃者は「体格のいい米国人と言い争ってた台湾人が斬られた」と言う。台湾から公安(中国の警察)が現地に行く。公安が目撃者から事情を聞くと犯人は米軍の兵士みたいだ。公安はマニラの米軍にかけ合った。米軍の広報に事情を説明すると、広報は「その男は、ジャイロ・エアーの選手だ」と言う。ジャイロ・エアーとは直径一mぐらいで高さ五mほどの、コンクリートポールのてっぺんにロープをつなげる回転体が二つあって、二本のロープをつないで、腰にそのロープをつけた男が二人で、剣でロープを切り合う競技だ。もちろん観客を動員して、審判がついてかけをする。米軍の広報は「試合に出てるときはうちと関係ないので逮捕してかまわない」と言う。公安が試合日を聞くと、「明日だ」と言った。公安は犯人の資料をもらう。かけの倍率が一.五倍前後で、対戦相手の倍率が三倍を超える強豪だ。公安は犯人が資産家と配当金のわけ前で、トラブルになったと考えた。公安はジャイロ・エアーの試合を観戦する。両腕に入れ墨を入れた米国人二人が対戦していた。どちらも両足をポールにつけて斜めの姿勢で、頭上のロープを切られないように、剣をぶつけている。倍率の高い方が、ロープを振り子のようにして跳び始めた。もう一人がロープを切られないように、ロープをポールにつける。跳んでいる男が、つながれているロープをつかんで、相手より高い位置を跳びながら、ロープを切ろうとして剣がポールに当たって、「ごきん。ごきんっ」と音が響く。古代ローマの、剣闘士の試合で劣勢な方が、優勢な相手が、形成が逆転するほど不用意な手加減をするように、ひたすら祈るような歴史的まなざしを彷彿させる。ロープをポールにつけていた男が、跳んでいる男にキックすると、空中で後ろ向きになった。キックした男がすばやくロープを切って、跳んでいた男が地面に落ちる。公安は前の席にいる主催者らしき、老人に事情を説明した。明日犯人と対戦する相手は倍率が四倍を超えている。公安は契約書にサインして、明日犯人と対戦することになった。公安は病院を見学する。病院の一階ロビーで、必須アミノ酸のぶん解データをパネル展示していた。アミノ酸の上に「アメリカ」と落書きがされている。病院の前で、政治団体の女性が拡声器を使って、なにかを叫んでいた。
 翌朝公安はバナナの箱詰め作業を見る。一〇代の若者が働いていた。女性が多い。公安は試合場へ向かう。ポールの前で犯人が先に待っていた。犯人が「おれが勝つとなにもなかったことになる」と言う。両者が脚立の上で準備をする。試合開始。犯人が公安の顔に向けて、剣を横に振る。公安が剣ではじき返す。犯人が「この国じゃ、おれの方が大統領よりえらいんだ」と言いながら剣を突いてきた。公安がロープを振り子にして跳んでよける。公安が「おまえが殺したんだな」と、聞いたら犯人はロープをポールにつけながら「そうだ」と答えた。犯人が公安にキックをする。公安が回転しないように空中で姿勢を保つと、ロープがポールの反対側へ回転した。公安はポールづたいに、犯人の反対側に出る。犯人は剣を横に振ってからキックしてきた。公安はすばやく剣を口にくわえて、両手で足をつかんだ。犯人が片足でバランスをとりながら、剣を振りまわしたが公安まで届かない。犯人がもう片方の足で跳んだ瞬間に、公安がつかんでいた足を押すと、犯人が空中で後ろ向きになった。公安が犯人のロープを切って、犯人が地面に落ちる。犯人が剣を持ったまま逃げ出した。公安は自ぶんのロープを切って追いかける。犯人は米軍基地に向かって走っていた。公安が一五mぐらいまで近づくと、犯人が走ることをやめて振り返って、剣を振りまわしながら「おれは自由の国、アメリカの象徴だぜ」と叫ぶ。公安が少し大きい石を拾って犯人に投げつけると、犯人の頭に命中して、犯人がよろけるように倒れる。公安は犯人を逮捕した。犯人は香港に移送されてイギリス人の殺人犯と同じ扱いを受ける。公安は米軍の資料室で「欠日日記」という資料を読んだ。そこには日本が米国の、植民地じゃないということが書かれていた。在日米軍は太平洋戦争における米兵の捕虜と、同じだと書いてある。日米の戦闘記録は、影法師の虚構だ。実際の戦闘は「サイパンとグアムで米国囚人兵の大半を、日本軍の精鋭部隊が処刑」となっていて、フィリピンにいる米軍は囚人兵の残存部隊だった。資料に日本軍の、精鋭部隊の名簿がある。付箋がついていて「核兵器の使用も含めて、終戦末期の民族浄化活動は若者に著しく感化を促す物で好ましくない」と書いてあった。

   おわり