サイパンの戦い
一六日目朝。
宮川に行かせた。
「米囚人パイロット二を見るんだ」
鉄条網で囲まれた別な司令室に案内される。米軍医三がいた。
米囚人パイロット二 模型銃座を爆撃しろだって。
「模型銃座は、ないよ」
米囚人パイロット いちどに弾薬が、三つのときがあるからな。
分断面をM二からM三に後退させると海岸までの距離が短い。
米軍将校六 サングラスはちびと同じだ。
宮川が帰ってきた。
「この協定書は時間が書いてない」
米軍将校六 戦車一〇〇台。新兵一五〇〇人と精鋭部隊五〇〇人。
曲射砲部隊が小麦粉の袋を大鍋にぶちまいてから、わしづかみにして空中へほうり始めた。五ぶ刈りに十字のそり込みを入れたやつが、両手で小麦粉をすくって外へ走り出す。赤く染めた長髪の男が小麦粉を口に含んで、水を飲んでからげろげろ吐き出している。ひげと髪を胸もとまでのばした男が餅みたいに丸めて、地面に並べた。他の大鍋でも同じようなことをやり始める。
M なにかの儀式だな。
寝つきがよくなるので、小麦粉をせんべいみたいに焼いて食べるが全部使ったようだ。
長野君 小銃使いの保険が切れました。以後省略します。
M 味方じゃなく敵のパイロットに痛みを連鎖させるんだ。空気は関係ないんだな。
午前一〇時。タッポーチョの斜面から精鋭部隊が五〇〇人。戦車一〇〇台と新兵一五〇〇人は海岸を進む。
飛行機がやってきた。
米囚人パイロット二がM一の目玉を二か所爆撃する。使える目玉はあと二つ。
残りの目玉から二〇人撃て。
長野君 保険が切れてます。
また飛行機がきた。
「ライトパープル」退避しろ。三機やってきた。三つ積んである方だ。
「長野君、竹田が改造した木組み台座の、対戦車砲があるだろ」
長野君 三台あります。
「前線側で前に来た戦車を、それで片づけて」
長野君 命中率がよくないですけど。
「米囚人パイロット二の注意がそっちにある。四七㎜機関砲の新型だ」
芋虫のような袋頭巾が海側に点在している。
M 死亡一八八三名。捕虜三一七名っ。
米軍医 陣地が乱れているようだね。ヒーローが誕生したら囚人兵を次の戦場に送るよ。
一七日目朝。
西村に行かせた。
「米囚人パイロット二が他にいないか確かめろ」
西村 意味がわからないわ。死体回収が午後一時まで。
「今日はカウボーイだ」
米囚人パイロット おれもそう思う。
米軍将校七 午前一〇時から航空爆撃三時間。そのあと戦車五〇台。新兵一〇〇〇人。
「長野君、木組み台座戦車砲の命中率は」
長野君 通常の命中率に対して大納言が五〇%、和泉式部が三〇%、清少納言が四〇%です。
木組み台座戦車砲は、外れるときは手前に落ちる。
米囚人パイロット そんなことよりも審判を撃つなよ。
午後一時。戦車五〇台と新兵一〇〇〇人が中央の岩場に散開している。海岸にトラックがあって、機銃が二〇丁積まれていた。
「機銃なんてどうやって使うんだ」
米軍将校七が機銃の担当に話しかけている。
西村 あなたは家族のことを考えながら戦ってるわ。幼なじみの女を思い出そうとしている。
もうすぐ二時だが山側に近づいてこない。
米軍医 設置係一名。
機銃を四人で、運んでいる。
山側に一五丁、前線側に五丁。
米囚人パイロット二が上空で旋回している。
西村 あなたが戦っている姿はすてきだわ。友達も恋人もあなたが死ねばいいと思っている。
曲射砲部隊が全員で軍刀を研ぎ始めた。金属音が響く。百合子が無表情になってきた。
竹田が使っていた前線の目玉を二か所爆撃される。次の爆撃まで一八分。
百合子に白粉(おしろい)と口紅をつけさせた。M三の中央に空爆を回避できる穴がある。パラシュートを地面に広げろ。
百合子出動。
M 一銭アルミ貨をどうするんだって。
百合子 昭和一八年の方に傷をつけて、飛行機をアルミ製に見立てて。
「米囚人パイロット二の顔を見るんだ」車輪の軸にひっかき傷をつけているやつがみえるか。
西村 あなたの奥さん、ピザの配達人を家に入れてたわ。二人が楽しんでる間に、あなたは戦場でのたれ死ぬ。
「ライトパープル」
「M三に女だ」落とせ。
M三にひとつ。黒人が本物だな。
紫式部 アたしがたべましたア。
米囚人パイロット二が爆撃しないで戻っていく。
あとは問題なしだ。
機銃を宮川が曲射砲で破壊。
米軍将校七が両手を上げてこっちへ歩いてくる。
M 死亡八二三名。捕虜二七七名っ。
米軍医 Dデイ(物量作戦)が近い。
つづく