夢で先祖が「超能力者に、なるようにしたよ」と言う。朝起きるとからだが一瞬空中に浮いた。おれの脳裏に都合よく調節する方法が浮かぶ。宇宙空間で宇宙船のなかが無重力になる現象は、宇宙船の加速によって発生している。つまり地球の自転速度を時速一六〇〇㎞とした場合に、一六〇〇㎞ぶんの加速があるわけだ。そこでもっと大きな加速を考える。まず太陽系が回転しているだろう。これは時速一万六千㎞ぐらいだ。まだある。銀河系の回転だな。これは時速一六万㎞ほどあるはずだ。この回転に精神を集中させると、無重力状態になる。おれは屋外で試した。しかし屋外では、なかなか集中できない。一〇分くらい粘って三〇㎝ほど空中に浮いたけど風が吹いて、集中力が切れてすぐ地面に落ちた。屋外じゃ自動車の音が、集中力の妨げになる。おれはこの能力がなにに使えるか考えた。物体に念じても変化は、ない。手品として公開してもさほどもうからないだろう。それに観客がいると失敗する可能性もある。おれは念じ方を文章に、することにした。まず銀河系の絵だ。宇宙図鑑の、銀河系の絵がある部ぶんを広げる。太陽系はやや外側だ。こいつが時速一六万㎞で回転しておれ以外の人間や物体はそれに気づかない。そしておれのからだが宙に浮く。宇宙船内の写真がある。これを少し想像してだ。おれは屋外で空中浮遊の練習をする。推進力をつけて、飛びまわることを考えないようにしているとすぐ浮く。しかしゆるやかに着地することができない。おれは落下傘を買った。浮き上がる寸前に地面を蹴ることができる。二〇〇mぐらい浮き上がって落下傘を使えばいい。そしておれが思ったとおりになった。落下傘が安全に開く高度まで集中力を維持させる。なんmくらいの高さになっただろうか。なにかが頭に軽くぶつかった。俵のような物が、顔の前にある。原子爆弾だな。原子爆弾の落下傘がおれにからみつく。おれは空中浮遊の集中力を維持しながら、原子爆弾を引き上げる。足もとに昭和二〇年代と思われる町並みがあった。おれは昭和二〇年八月六日の広島か、八月九日の長崎に時空移動したみたいだ。爆弾の信管をはずして、着地してから再投下の前に走って逃げれば助かる。いや。中止になれば、おれが英雄になるかも知れない。信管はどれだろう。それらしい物がたくさんついている。なんのためだ。だめだ間に合わない。原子爆弾が炸裂した。
おわり