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2019年度の囲碁棋戦の主役は、間違いなく上野愛咲美さんでした。急成長の天才女流棋士に、女流棋戦のリーダー、謝依旻さんや藤沢里菜さんだけでは無く、若手の男性タイトルホルダーも翻弄され続けた。
現に上野さんが囲碁棋戦の主役であるとすれば、囲碁普及の主役は一体誰か?
囲碁普及の主役は〈星合志保・二段と、その盟友たち〉かも知れません。
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==女流棋戦ふりかえり
……2019、No.03(全3回)==
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2018~19年にかけて女流棋士が行った一連の囲碁普及は、行動力も実績も、これまでとは比較にすらならない。
それら全てを象徴する写真が、『囲碁棋士フォトブック』のツイッターに投稿されたこの1枚。
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【写真】段位・敬称略。
左から木部夏生、星合志保、藤沢里菜、上野愛咲美、金子真季。
【アドレス】若手棋士イベント企画よりhttps://twitter.com/igo_photobook/status/1116661508799225856?s=19
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A》都内ですら少なかった囲碁活動
「金子真季さん、木部夏生さん、星合志保さん……
東京本院所属の仲の良い女流棋士とチームを組んで、新しい囲碁活動をやってみたらどうですかね?」
覚えていてくれているかどうか。そんな話を、私から金子さんと星合さんにしたのが2017年。理由の1つには、囲碁普及が盛んであろうと思っていた東京ですら、〈リアル碁初参加、歓迎します〉と言う様な活動は少な過ぎる──それを実感していた為でした。
私が東京に通っていたのは2004~10年。当時の都内には、
〈囲碁の勉強が出来る所を探している囲碁初級者〉
〈リアル碁に興味あるネット碁ユーザー〉
等が多数いました。そうした人達はインターネットで碁会所や囲碁教室の情報を探していたのですが、〈ネット上で紹介されている〉都内のリアル碁の情報は、当時は何故か少なかった。その為に、都内の囲碁活動の情報ですら探すだけでも一苦労。
その一方。自分達が何か行動を起こさなければ、囲碁が廃れてしまう──。そうした危機感を抱いていたのが、星合志保さん。私の申し出が「星合さん達の決断を促す些細なきっかけ」程度になったのであれば、それはそれで良かったのかな……とは思ってはいますが。
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B》東京本院版の『舞姫』
仲の良い女流棋士とチームを組んで、新しい囲碁活動──そんな事を言われたって、そもそも都内近郊では前例自体が無い。前例が無いから、何をやって良いのか分からない。ヒント無しに突っ走れば『闇の中での手探り状態』になったはず。
しかし幸いにも、ヒントはあった。「関西棋院所属の女流棋士が、『舞姫』と言うチームを組んで、定期的に指導碁会をしています」
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【写真】舞姫~関西囲碁女流棋士八姉妹
http://www.igomaihime.com/index.html
それを伝えると……
金子さんから。「東京の若手の女流棋士のまとめ役みたいな事は、謝依旻先生がされています。舞姫みたいな活動が出来るかどうか、まずは謝先生に相談してみます」
星合さんから。「舞姫メンバーの稲葉かりんさんとは、普段から仲良くしています。舞姫の現状について、かりんさんにお話しを聞いてみます」
それから約1年。2018年12月、『クリスマスでも囲碁がしたい!』が開催。これが、東京の若手女流棋士による囲碁活動の第1弾。ここから『若手棋士イベント企画』チームの活動が本格始動。
年が明けてからは、『女子囲碁お茶会』『謝ファミリー囲碁会』『女流棋士浴衣囲碁まつり』……
そして2019年最大のプロジェクトが『女流棋士フォトブック大感謝祭』。フォトブック製作の為の資金調達に成功しただけでは無く、張栩さんや万波佳奈さんをはじめとした、
「若手~中堅棋士総動員」
「アマ有志による運営支援」
と言う、大型イベントとして帰結した。
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C》囲碁活動と言う『作品』創り
そして何より注目すべきは、新しい囲碁イベントを運営してきた女流棋士の面々。
企画・発案に始まり、フォトブック製作の為のイラスト作成やパソコン作業では、金子真季さんや木部夏生さんが才能が発揮。
タイトル戦や海外棋戦でスケジュールが埋まっているはずの女流トップの3人(謝依旻さん・藤沢里菜さん・上野愛咲美さん)も、陰に日向に、活動を常に支えていた。勿論、他の人達も。
そうして完成したのが、『女流棋士フォトブック』
そしてこのフォトブック完成を祝う『大感謝祭』には、多数のファンや囲碁棋士が駆けつけました。
若手の女流棋士の活動は、何故にファンから支持されたのか?
囲碁以外の話ですが、今の若者には、アイドルグループあるいは文化系部活のアニメが人気。それらが何故人気なのかを考えると、単に華やかで楽しくて面白いからだけでは無く、
◎幼い時から仲良くして来た若者が
◎目標と苦楽を共に研鑽を続けて
◎力を合わせて作品を創り上げる
そうした姿に共感した人達が、ファンとして長く応援し続けている。それを私は『青春群像劇』と呼んでいますが、今の若手の女流棋士もまた、幼い時から囲碁を通じて苦楽を共にして来た。だからこそ、お互いを理解し合い、助け合えたのだと思います。
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2018年以降に実施された新制度によって、日本棋院に採用される女流棋士の数が急増しました。そうして誕生した新しい女流棋士を、これまで通りの普及活動や公式戦に漠然と参加させるだけでは、今までと代わり映えも無ければ、発展性も無い。
今後は〈囲碁棋士として成長出来る環境〉を創り、提供していく必要があります。その1つが若手棋士主催のイベント企画でしょうが、囲碁の若手女流棋士に課せられるテーマは、
「仲間がいるからこそ、自分達に出来る事は何なのか?」
になるでしょう。普及活動でも、公式戦でも、国際大会でも。
(3回目・完)
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