Guitars On Broadway

洋楽とエレクトリックギターの旅路

Fender Japan FAT3

2015-07-15 14:27:34 | AMPLIFIERS

ピーターソンに引き続き80~90年代を掘り下げる第2弾。フェンダージャパンで80年代の後半から90年代初頭の短い時期に作られた唯一のフルチューブアンプ「FAT3」。同時期に50WのFAT5、12WのFAT1とバリエーションがありこのFAT3は30Wバージョン。80年代からのフェンダーUSAのアンプは市場のニーズとは大きくかけ離れたモデルばかりになり低迷が続きました。古き伝統のフェンダーチューブアンプの根本を見直すことが出来ず、USAメイドに拘り、パーツの全てが自社生産という非効率な形態から脱却出来ずに運搬も困難な重量と大出力の巨大コンボアンプを定番にしていました。次第にレオフェンダーが作ったミュージックマンブランドやピーヴィーのようなローコストで新しいチューブアンプにシェアを奪われる結果になっていきます。

当時のフェンダージャパンの設立経緯やUSAフェンダーとの関係はいろいろな話があるのでここでは省きますが、トランジスタアンプや新しいチューブアンプの開発は本家USAフェンダーでは不可能な状態。そこで短期間で開発するため日本の技術が必要になったのは必然でした。フェンダージャパンのブランドを保有する神田商会は製造工場を持たないので国内の専門のアンプ製造メーカーが設計、製造することに。当時のフェンダージャパンではローコストのトランジスタアンプの開発がメインでしたがあくまでも古き良き真空管アンプの質感を維持したいUSAフェンダーとのギャップも垣間見れるモデルも多くありました。そんな中、オールチューブで軽く持ち運びが出来るコンパクトさ、トーンはツインリバーブ、歪はマーシャルなんていう無理なコンセプトを具体化したのがこのFATシリーズでした。現在だと当たり前の条件のようですがデジタル機器が出始めたハードもソフトも混沌とした時代には難しいアンプのようです。フェンダーUSAがビンテージリイシュを出す前なのでビンテージトーンの要望も確かに高かったのは覚えています。

USAフェンダーの12インチ一発のモデルより一回り小ぶりで出力パワーは2倍以上。アキュトロニクスのスプリングリバーブ搭載でエミネンスにオーダーした特別仕様の12インチスピーカーと6V6×2のフルチューブユニット。トーンはブラックフェイス期に近いタイトなクリーントーンにダイオードクリップを用いない純粋なプリ管をオーバーロードさせる2チャンネル仕様で歪のトーンに関しては有名ヘビーメタルギタリストが監修しています。リアルマーシャルではないですがチャンドラー・チューブドライブに近い粘りのある歪はジャズフュージョンにも対応できるトーンです。シンプルですがシングルコイルからハムバッカーまで調整可能な幅広いトーンレンジは現在のハイエンドアンプに近い感覚。空間系のエフェクトが熱くなり始めた時代なのでセンド、リターンもしっかり装備。

しかし、このスペックを作るためには安くはいきません。このFAT3でさえ8万円強という定価がついていました。実際弾いてみると素晴らしいのに派手さは無くコマーシャル的にも寂しいので製造時期も短く打ち切り、90年代中盤に在庫を叩き売りです。このFATシリーズを最後にラインを動かす日本でのギターアンプ製造は終焉し台湾、韓国へシフトしていきました。

この写真のFAT3をよく見るとロゴもなければノブやスピーカーも違います。このアンプはFATシリーズの開発者から直接譲り受けたプロトタイプで大変レアなモデル。製造前の最終段階に近い試作機なので製造は80年代中盤、スピーカーは70年代のオックスフォード。プルゲインも無ければブライトSWもありません。

ここでは書けませんが当時のUSAフェンダーとの関係や開発秘話など大変生々しいお話をお聞きしました。同時期に出ていた有名なトランジスタアンプシリーズの設計も全てこの方のようです。ということはそのあたりのカタログに書かれていたアメリカのアンプデザイナーが手掛けたというのもかなり怪しい話ですが30年以上前なので時効でしょうね。


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