読書の森

殺したい人 その10



英美は声もなく倒れた。
ぐったり横たわる彼女の周りには、花瓶の欠片が散らばる。

この光景を見た途端、久人の思考力が停止した。
「逃げろ」という声だけが耳元でする。

こんな状態なのに、久人は背広に着替え、ネクタイを締め、ブリーフケースを持って玄関を出た。

鍵を閉めた。
鍵を開けて置いて物盗りの仕業にするなどの発想は一切浮かばない。



久人は、電車に乗った。
なぜか、通勤する時と同じコースを辿る。

会社の所在地で降りたらいけない、迷惑をかけるという意識がある。

見知らぬ駅で降りた。
彼は見知らぬ街を彷徨い続け、いつしか日が落ち、夜となった。

「妻を殺したい」と言う思いが
いまや「不甲斐ない自分を殺したい」と言う気持ちに変化した。

高速道路に飛び込んだら、死ねるだろうか?
高架橋からじっと下を見る。

夜、死は魔物の形をして忍び寄る。

読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️

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