「山のあなたの空遠く 幸い住むと
人の言う」
カールブッセの有名な詩を、私が初めて知ったのは、昭和30年代の場末の映画館だった。
モノクロの画面になだらかな山が映り、お下げ髪の少女がそれを見て話している。
話の中にこの詩が出てきた。
「遠い未知の世界に何かが待つ」そのイメージは私を捉えて離さない。
それは、ずっと変わらずにあって、どんな困難な時も、ここを越えると幸せが待ってると言う夢想に近いものに支えられている。
沢木耕太郎は名作『深夜特急』でインドのデリーからイギリスのロンドンまでバスの旅を試みた。
予定も計画も無い貧乏旅行のなんと魅力的だったことか。
削いだ様な風貌の沢木耕太郎がひどく素敵に見えた。
それも未知を探る旅であり、可能性に挑戦していくドラマだから、ワクワクするのだった。
もっと以前、山本周五郎の『虚空遍歴』を読んだ時、悲劇的結末にも拘らず流浪そのものに憧れた。
ここでの主人公は端唄の作者として人気絶頂にありながら、より高い芸術を求め、妻子を捨て旅に出る。
彼の歌に魂を抜き取られた女がそっとついて行く。
無理を重ねた男は病に倒れる。
女は名前告げず、一心に尽くすが、虚しく男は客死した。
夢の様な憧れだけに支えられた男女の純粋な交情が、墨絵の様な風景を彷徨う。
意味も無いと言える「憧れ」に身を焼くのが、なぜか私も好きである。
「けふもまたこころの鉦をうち鳴らしうち鳴らしつつあくがれて行く」
これは、漂泊の歌人若山牧水の歌である。
彼は短い一生を歌の旅で終わったわけであるが、羨ましいと思う。
私も心の鉦を鳴らし、憧れの未知を探る日々を送りたい。
読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️
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