読書の森

触れ合い その2



由美子は外見に似合わず気さくだった。
絵里に仕事を回す時も、正規と非正規の隔てを感じない。
彼女だけではない、若いピチピチした女子社員の殆どが能天気で、希望に満ちて、親切だった。

毎年確実に給料は上がるし、結婚は必ず出来るだろうし、ちょっと給料が低めな位我慢出来るさ、と言う気持ちが伝わってきた。

絵里が大学で学んだ心理学とか、教育学とかがまるで必要ない、平凡で健康な職場があった。



絵里の好きだった人は非常に優秀な男でその分自意識過剰気味のところがあった。
相手の告白めいた言葉が絵里を狂わせたが、実は他の女性にも同じ事を言っていた。
彼に向かって真っ直ぐ突っ走っていた絵里は、絶望して、ビルから飛び込み自殺を図ったのだ。


5階から飛び降りたのだが、幸い下が芝生だった。出窓に引っかかったのも命拾いの要因である。骨折はしたが、奇跡的に助かった。
しかし、身体の後遺症が社会復帰を遅くしたようである。
男性からは何の見舞いもなかった。むしろ、そんな衝動性のある絵里を恐れたらしい。見事に無視された。


頭のいい人は、後から付け込まれる証拠を残さない。
絵里は、それを苦い経験で学んだ。



その会社で働く内に、絵里はやっと生きてて良かったと心から思った。
職場の人たちの呑気さは絵里のささくれた心を柔らかく解してくれた。

コピー機もコンピュータも一箇所に一台だけあり、作業は専門員にやってもらう。
1976年時の会社としても遅れていたのかもしれない。

その遅れ具合が絵里にとってひどく気が楽に感じた。

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