読書の森

菫の危機 その2


和也は悪いなと言う表情を浮かべて説明し出した。
実は和也はこのメールを貰った直後に安否を確認するメールを出した。
ところが、それっきり菫のメールは来ない。
和也は不安になって山手の菫の家に駆けつけた。
門は閉まり、二階の菫の部屋のカーテンは厚くかかっている。

「そういう事情ね。でも家族旅行に行ったとか?」


「会社のかき入れ時にかい? 菫は養女に貰われた。実の子じゃない」

「それが何なの?いい洋服着てブランドの時計嵌めて贅沢させて貰って」

「愛情は金で買えない」
和也の声が大きくなった。
ヨシミはしょげた。

「ごめん。菫が前に話してくれた事言わないとわからないよなぁ」
和也は声のトーンを優しくした。



菫の話とはこうである。

彼女の父親東守は貿易商をしている。
銀座の小体なビルの社長だ。
母はそこで経理をして従業員はごく僅か、しかもアルバイト。

それで売り上げが悪いのかというと、大層な収入がある。
菫は疑問を持った。

そしてコッソリと父のパソコンを調べたのである。
驚くべき事が判明した。
養父は某国の産業スパイだったのである。

会社社長の仮面を被り、他国のブローカーと取引をしている。

菫が養女に貰われたのも、利発な彼女を立派なスパイに養成する為である。
その前に彼女を一流大学に入れ、そこからも最新情報を入手するつもりだったらしい。

「正義感の強い彼女は、その情報を警察に流そうとした。そこで両親に気付かれた。
その直前にこのメールを打った。
暗号にしときゃ誤魔化せるからね。
今彼女は危険な状態にあるかも知れない」

「嘘う! それって証拠あるの?」
ヨシミは遮った。

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