病室の長い通路を松葉杖で歩く内、二人は格好のボーイフレンドを見つけた。
ミホより4つ下、小柄で細身の少年漫画に出てくるような可愛い顔をした子だった。
伊東健治という四角四面の名前に似合わない凡そ桁外れの子だった。
それが新鮮で面白かった。
毎朝の訓練終了後、女の子二人で「伊東君、(遊びましょ)」と彼の病室を訪ねるのが習慣になった。
彼はスキーでも楽しむかのように、スイスイと松葉杖で病院を闊歩している。
彼はスキーでも楽しむかのように、スイスイと松葉杖で病院を闊歩している。
素早い動作と回転の良すぎる頭と大人顔負けの訳知りの物言いがませた印象を与えた。
付き添いのおばさん連中からの彼の評判は良くなかった。
「顔は子供の癖に変にませてる。大人の女を揶揄う。ふてぶてしい子だ」
旧式な民子の母は「あんな子と付き合って変なこと覚えちゃダメ」とか渋い顔をして言っていた。
ミホの母は干渉を避けていたが、どうも伊東君には良い印象が無いらしい。
ミホは伊東君自身もおばさんと言われる年齢の女性をわざと無視しているのに気付いた。
ミホの母は、優しげで美しく男の子に慕われて喜ぶところがあったが、彼女も例外ではなかった。
彼の母親世代の女性を徹底的に嫌っているのではないか、とミホに思えた。
そんな彼の規格に外れた言動を、何故か看護婦も医師も咎めなかった。
「伊東君又ガールフレンドが来たよ」と微笑んでいる。
民子は全然何も感じなかったようだが、ミホは「何かある」と思っていた。
それが何かはわからなかったし、追及する気にもならない。
生まれて初めて、なんの違和感もなく、一緒に暮らせる兄弟ができた様なワクワク感が続いていたからだ。
三人の中で、民子が一番背が高く脚が長くスタイルが良かった。伊東君はミホより小柄だが引き締まった身体つきである。ミホは最近身体に脂肪がつき始めたのを鬱陶しく思い始めていた。
三人の中で、民子が一番背が高く脚が長くスタイルが良かった。伊東君はミホより小柄だが引き締まった身体つきである。ミホは最近身体に脂肪がつき始めたのを鬱陶しく思い始めていた。
伊東君はミホをよくからかった。
「三人の内で一番脚が短いの誰だろう?」
悪戯ぽい目つきをする。
ミホが瞬間湯沸かし機のように怒り出すのを期待してるのが丸分かりである。
本来ならせっせと学校に通う筈の三人にとって長い夏休みの延長が続いていた。
私立なので、一学期の成績を考慮して、進学できると決まっているミホと異なり、二人の進学は危うい筈だった。
全て家族に頼っている民子の頓着の無さは分かるが、伊東君の学校に対する無頓着さはどこから来るのだろうか?
頭に回転の早い利発な伊東君だが何か秘密がある、とミホは疑う。
しかし、新鮮な体験が続く日々はそんな疑問を消し去ってくれたにである。
何故なら伊東君の紹介してくれたこの病院の患者は、全てミホが今まで会った事の無い面白い人々だったからである。