宇多智樹が、教授に自宅の文献の閲覧を希望した時、上城は鷹揚に承諾してくれた。
ジャーナリスト志望だった智樹が専門化した知識以前に広範囲な知識が必要なのを承知しての事だ。
ひょっとしたら教授は魅力的な妻に、若い学生が惹かれ一喜一憂するのを、意地悪く楽しんでいたのかもしれない。
智樹はそれでも教授の留守を狙って、頼子と会うために訪れた。
頼子は軽い食事を一緒にしたり、文学の話をしたり、まさに友達の様に宇多をもてなす。
貞淑な妻とは決して言えない。
と言って悪女には程遠い。
智樹はやっと「虹の様な」という意味が分かった。
無邪気で明るくて、すぐ消える、実体があるのに、謎めく。
「お前、将来に差し支えるから」
夫人との付き合いを止めろと友人は本気で心配した。
しかし智樹は頼子と会いたかった。
あれは熱病に罹った様なものだった。
傲慢不遜な上城教授から頼子を奪う。
自分は本気でそう思ったのだと智樹は回想する。
語学が堪能な彼は、いざとなったら海外で頼子を連れて生活してもよいと思っていた。
そんな世間知らずな彼が、奇跡の様に一流新聞の就職試験に合格したのである。
真っ先に頼子に報告した時、いつもの愛らしい笑顔は見せなかった。
じっと考え込んで、やがて言った。
「宇多さん、もう家には来ないで下さい」
読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️
最新の画像もっと見る
最近の「創作」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事