見出し画像

読書の森

新宿らんぶる 最終章

卓也からの電話はこの秋、一週間前にあった。
心待ちにしていた訳では無いが、美波の心は浮き立った。これは一応気になる男から誘ったデートなんだから❤️
わざわざおニューのワンピース迄着込んで来たのに、、、全然ロマンチックじゃないわ。
モスグリーンの襟付きのワンピースは店員に言わせると「大人可愛い」んだそうである。
カワユイ女を演出して見せたいのに、全然ダメだ。

美波は目の前の男、横山卓を睨んだ。
「横山、、さん」
「何ですか?」
ツルンとした顔で卓が聞いた。

「あなた、私にアレした事覚えてる?」
「アレじゃ分かりません」
「つまり」
「ああキスですか?」
「何でも無さそうに言いますね」
「だって傷がついた訳じゃないでしょう?」
「確かに。もうそれはいいけど、でも何であの後逃げたの」
「逃げた?」
「つまり住所変わったじゃない。あの後会いたくて行ったのに。恥かいちゃった」

最初キョトンとしてた卓はやがて表情を崩してゆっくりと笑い出した。
「笑い事じゃないわ」
「じゃあ言います。又あなたにキスしたくなるといけないからです」
「何言ってるのよう!」

卓は真面目な顔に戻った。そして噛み締めるように言った。
「実は」
「実は?」

そこから後の卓の言葉を、妄想力逞しい美波は考えてしまった。
「実は他に好きな女がいた」若しくは
「同性しか愛せない」若しくは
「金欠でデート出来ない」
最後が一番当てはまりそうだ。と美波は思う。この人、ともかくあのサークルのマドンナだった(他に女性がいつかなかったから)私に、ずっと気をもたせてたんだから。
きちんと真実を白状して欲しい。


「実は」卓也はコーヒーを酒でも呑むように一気に口に入れた。
「僕には大望があったんです。それは死んだ親父の望みでもあった。それを果たす迄は恋など出来ないと決心してた」
「そんな馬鹿な。今どき変じゃない」
「だってウチのサークル成功した人もしない人も並と違うじゃないですか?変人ですよ。
先輩だってそうでしょう?金にはならないけどやりがいのある仕事をしたいんでしょう」
「その先輩というのやめてほしい。一つしか違わないんだし。
ともかく私は仕事の話どうでも良いの。横山が私をどう思ってるのか聞きたい。
私は独身の女性ですよ。今のところ横山しか相手ないし。
それなのに。
ねえ自分で私を振り回してるって思わないの?」
美波は卓を怖い目で睨む。

なのに、卓はニコニコし出した。
「その大望が叶ったんです。だからあなたに電話したんだ。
つまり今日はっきりしたことは、あなたが今僕の他に好きな男はいないって事だ」
自惚れ屋と美波は思う。悔しいけどその通りである。

「僕の大望とはニューヨークで会社を起す事だったのです。
そして近くその第一歩を踏み出すのです」
美波はポカーンとして彼を見た。自分が知ってる卓は凡そ社長なんて縁のない、コンピュータお宅に過ぎなかったから。

「何ですか?それって、その会社って」
「つまり世界の食の流通を変える仕事なんですよ。かなり困難があるけど」
代々の豪農だった横山の父親は戦後の食糧難を具に見て、日本の一次産業を根本から変えねばならない、と考えた。
その為に斬新なアイデアを農協の仲間内で出したが、案の定ドンキホーテ扱いされた。
幸い横山の家は潰れなかったが、父親が早死にした後、母親は残した事業の借金の後始末で大変だったと言う。

母や親戚から父親の悪口ばかり聞いて育った卓は、死んだ親父の後を継いで農業を改革したい、と考えたのである。
コンピュータが産業を導く時代だ、第一次産業もコンピュータ化で変化すべきだと。
そこで彼は遠大な計画を立てたのである。

卓は、先ずプログラミング技術を見につけ、次に商事会社に入って、日本の食料品を海外に紹介しようと考えた。さらに海外から安い食品を輸入して流通を盛んにしたい。その為に農業もネット化したい。
最終的には世界の中心地で、日本食品を広める会社を興したい、それが卓の遠大な夢だった。
今回、会社(大手貿易会社)のニューヨーク支店の窓口責任者として栄転出来る事になった、夢を叶える第一歩なのだ。

その時卓は人が変わったように雄弁だった。この人凄く頭いい人だったんだ。
美波は最早頭が全く働かない。
だが、それで私は一体この人とどうなるのか?

「それで、、先輩!いや美波さん、あなたも一緒にニューヨークへ来てくれませんか?
半年後なんですが」
卓は嬉しそうに美波を見つめている。

これはプロポーズって事なの?
美波は雲の上を歩いているフワフワの気分だった。
夢かも知れん、と自分のほっぺたを思い切り捻った。
「どうしたの?」
「夢かどうか確認してんの」

この広い喫茶店で客の会話の邪魔にならぬ程度に流れる音楽が、この瞬間ベートーベンの『運命』であれば良いのに、と美波は思った。
まさに彼女にとって、卓のプロポーズ(?)はジャジャジャジャーンという運命であった、、。

追記
昭和中期の婆のイマジネーションだとこの程度の結末になってしまいました。
読者様の反応から見て、かなり男尊女卑、古過ぎるでしょうか?
それでも浮世離れしたこの主人公たちの行く末をどう決めるべきか?
色々考えてしまいます。
ここまで読んでくださって心から感謝しております♪

読んでいただき心から感謝いたします。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「創作」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事