(つづき)
元湯山荘から鳩待峠までは10kmと少しの道のりです。空が一段と暗くなったと思ったら雨になり、つい気が急いた歩き方になってしまいます。天気は残念ですが、幸いなのは登ったことのある燧ヶ岳と至仏山が、両方とも見えていたことでした。
眼前の至仏山はどんどん大きくなっていき、背後の燧ヶ岳を何回も振り返ります。前後の山にはまるで引力が備わっているようです。湿原を流れる小川を一つ越えるだけで空気が変わる気がします。
百名山に選ばれた二座の山を、ほとんど真っ直ぐに結ぶ木道を歩く。尾瀬以外に同じような場所はありません。
湿原はビジターセンターと三軒の山小屋が建つ山の鼻で終わり、バス停の鳩待峠まで樹林帯を歩きます。長い行程の最後に200mほどの登り、しかも終わりに近づくほど傾斜が増していくという道です。鳩待峠へ帰るには必ず通る、消化試合のようなものですが、今日は違います。雨が降っているからです。樹も地面も水に濡れて、透明感にあふれ、陰影も濃くなっています。雨のおかげで初めていい道だと思うことができました。負け惜しみではなく本当にです。
御池から鳩待峠まで、ほとんど20km近い道を歩きました。ゆっくり歩くのもいいですが、今日は1日で2日分歩いたと思うくらいよく歩きました。燧裏林道・三条ノ滝・尾瀬ヶ原を同じ日に歩くのはとても充実感がありました。一度尾瀬で、ひたすら歩けるだけ歩いてみたいと思っていたからです。
(2015年9月下旬)