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近代「エリート神話」は崩壊した AI登場で教育は「意味」を教えればよい 筑波大学大学院教授・古田博司

2017-06-29 16:30:57 | 日記

 今回は社会評論をする。いま日本で何が起こっているかといえば、「勉強エリートの削減」「勉強エリートの転落」「秀才万能神話の崩壊」である。これらをもたらしたのは、彼らより万能なインターネットと人工知能(AI)の登場だ。

 秀才が単なる勉強エリートなことは、藤原正彦さんがきちんと定義してくれている。「受験勉強でも偏差値の高い者は、頭がよいというより勉強法が上手い。そういう者は誰に言われなくても、最も効果的な勉強法をとっている」(週刊新潮6月15日号)

≪大学教授の大量削減が始まった≫

 勉強エリートは、勉強も仕事も要領がよくて処理能力が高いのである。大学教授はその上澄みだから本当にすごい。私が大学で行政職の末端の長をしていたとき、予算の概算要求書を東大出に丸投げすると、なんと1日でやってしまった。そういう人たちが各官庁にゴロゴロいると思った方がよい。

 問題なのはかつて近代日本が途上国だったため、彼らを牽引(けんいん)役として大量に輩出してしまったことである。今は彼らを削減するのが時代の要請だ。そこで国立大学文系の組織や予算縮小で教員の削減が必要になった。首は切れないから、移籍したり定年したりして空いたポストは埋めない。うちの文系は150人、北海道大学は200人削減である。

 次に「勉強エリートの転落」。これには「秀才万能神話の崩壊」が絡んでいる。キーワードは「正義」だ。私は東大の非常勤講師を1997年から2年間した。講義で「君たち知らないことは知らないと言わなきゃいけないよ」と言うと、反響がすごく、講義後に学生たちが「本当に言っていいんですか?」と聞いてきた。言えないので、知ったふりをして話を徐々に自分に引き寄せるのが常だという。これを私は「秀才万能神話」と呼ぶ。今でもテレビのクイズ番組などが続けているが、もうスマホで答えがすぐ手に入るのだから、やめてもよいのではないか。

≪正義まで自己主張する高慢さ≫

 そして万能は正義を要求する。本人は正しいことをしていると思い込んでいても、本当は万能ではないのだから、次々とウソをつくようになる。ウソ行為や非常識が無意識化する。東大エリート、東大助教授の輝かしい経歴を持ち、公私混同の資金の乱用が批判された舛添要一前東京都知事は、「あの騒ぎは人民裁判」と、なおも自己の正義を主張する。もう彼らは何人、埃(ほこり)にまみれ地上に落ちてきたのか。

 大震災は「まだ東北で良かった」と、言ってしまった今村雅弘前復興相や、水たまりでおんぶされて被災地を視察し、批判されると「たぶん長靴業界はもうかったんじゃないか」と言った務台俊介前内閣府政務官、出会い系バー通いを「女性の貧困を扱うテレビ番組を見て話を聞いてみたいと思った」(東京新聞6月8日付)と称し、「素朴な正義感がたたえられる」役所で「“反骨精神”は、現職時代から際立っていた」(産経新聞5月27日付)といわれていた前川喜平前文科省事務次官-。

 「旧約聖書は正義を語らない」と言ったのは山本七平だったが、聖書の神様さえ正義は語らないのだ。なぜかといえば、高慢な人間に罰や呪いを与えるのだから自分が正義だと高慢になってしまう。高慢同士では筋が通らないので、神様も失敗したときには、「わたしはサウルを王としたことを悔いる」(サムエル記上15-11)と、後悔して反省するのである。

≪「意味」を体得させる教育を≫

 さて、欧米の後進国ではなくなった日本の教育をどう考えるかである。当然インターネットやAIにできないことを教えなければならない。「東ロボくん」開発の国立情報学研究所、新井紀子さんによれば、AIは論理と確率と統計しか言葉がなく、「意味」が分からないそうである(毎日新聞12月24日付)。 

 「ネズミの脳下垂体を除去したらどうなるか」というと、人間ならば何か重大な支障が起こるはずだと「意味」を理解する。ところがAIだと、「血が出るか、死ぬか」と答えるという。要するに近代以後の教育では「意味」を教えればよいのである。

 芸術や体育は、ルール以外ではほとんどが意味の体得である。センスとか不随意筋の随意化とか、言語にできないものの「体得」である。医系ならば、群馬大学医学部付属病院の失敗が参考になる。手技を体得させればよいのである。意味のある手術はAIには無理だ。理系ならば実験である。どの実験がどんな意味を持つかはAIには絶対に分からない。

 人文社会系では何か。歴史学はどんな歴史事実を選択してそこに「意味」を見つけるかである。アクティブラーニングと称しても、契約書取り扱いまがいの模範問題しか出せない文科省は、「ゆとり教育」「ポスドク1万人計画」「法科大学院」と、すべての教育施策に失敗し、組織ぐるみの天下り斡旋(あっせん)の結果、先の前川前事務次官が辞任した。この意味を考える問題はどうだろうか。(筑波大学大学院教授・古田博司 ふるたひろし)

2017.6.29 10:00【正論】産経

 

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