The Best of Marion Zimmer Bradley (Daw science fiction) 価格:¥ 358(税込) 発売日:1988-04-05 |
もう15年以上も前、自分が訳したたどたどしい訳文です。『The Best Of Marion Zimmer Bradley』というペーパーバックのイントロダクション部分でした。
なぜそんな文を書いたか、いきさつはこうです。高校の時の後輩で、マリオン・ジマー・ブラッドリーの作品が好きな人がいて、その人にこの本をプレゼントし、序文と、最も短くてタイトルの気に入った短編を訳した文を添えたのです。
今から思えば、迷惑だったと思います。誰もがお気に入り作家の未訳作品を、苦労して外国語を訳してまで、読みたいわけではないからです。
それに、私が素人訳した作品は、未訳でも無かった訳しているうちに気づきました。SFの短編集に入っていて、なおかつ読んだことのある作品だったことに。(たしか、『たんぽぽ娘』という短編集に入っている、『風の人々』という作品だったかと……)
でもその序文部分、読んでいて懐かしかったし、まさに物語を書くことになったきっかけというものに触れていて、興味深かったのです。
書き出しの文はまあまあの部分もあり、こっちも参考にできる訳文があったのかな、とも思いましたが、中ほどは失速してたどたどしくなるので、やっぱり自分で全部訳したのかしら、と思ったり。(もはや覚えていない……)
“ことのはじまりがどんなだったか、以前に話したことがあるかもしれない。あの日私はニューヨーク州のウォータータウンから、レンセルの田舎の家族の元へ帰る旅の途中で、乗り換え駅はウティカだった。そこで私は自分のために一箱のチョコレートと、そしてほとんど生まれてはじめて、自分自身で選んだ雑誌を買ったのだ。”
そうして、『スタートリング・ストーリーズ』という雑誌を買い、その中のカットナーの『ザ・ダーク・ワールド』という作品に魅せられ、それが作家になるきっかけとなったことが語られます。
(余談ですが、“それがヘンリー・カットナーの名義ではあったが、本当はキャサリン・ムーア・カットナーの作品であることは後に知った”とあり、それに、“『シャンブロウ』のC・L・ムーアか?”と私のメモがありました)
“振り返ってみて、私のそれまでの人生も決して波乱のないものではなかった。けれどあのとき、黄昏をゆく汽車の中で読んだ、カットナーのすばらしく神話的な世界を変えた人間の物語、正直言ってあれほどに輝くような喜びを与えてくれたものは、それまでになかった”
“その旅が終わる頃にはもうわかっていた。私は将来作家になって小説を書いていきたいけれど、でもそれはただの小説じゃない。私の書きたいのはサイエンス・フィクションなのだ”
こんな文章を再読(まったく覚えていませんでしたが)して、物語の種というものに興味のある私は嬉しくなり、また、その最初のきっかけとなった雑誌が、なにげなく一箱のチョコレートとともに買われたのも味わい深い気がして、掘り出してよかった、と思いました。
けれど。まだ二十代の頃、学生時代英語がかなり苦手だったにもかかわらず、お気に入り作家の未訳作品が読みたいばっかりにペーパーバックに手を出した私ではありましたが、最近はそんな情熱はほとんど無くなってしまった
遠いところにきたなぁ、とも思いました。