だいぶ日にちは経ちましたけれど、前回に引き続き、エド・マクベインの話を。
私は20代の頃、マクベインの『87分署シリーズ』にちょっとハマりました。
でも、彼の作品はもちろんそれだけじゃなくて、エヴァン・ハンター名義のものもあるし、それに、少し後に読んだ『ホープ弁護士シリーズ』のこの1冊はちょっとした衝撃がありました。
白雪と赤バラ (ハヤカワ ポケット ミステリ―ホープ弁護士シリーズ) ストーリーもラストにどんでん返しがあって鮮烈な印象だったのですが、なにより、このシリーズはマクベインが60歳を過ぎてから書きだしたもので、その若々しさ、パワフルさに圧倒されたのでした。 いつだったか、マクベインがイギリスの権威あるミステリの賞“ダイヤモンドダガー賞”を受賞したことがありました。 その時のスピーチをミステリマガジンか何かで読んで、思わず頬がゆるんでしまいました。 だいたい、こんな内容だったかと思います。 “このダイヤモンドダガー(ダイヤモンドをちりばめた短剣?トロフィーがわりに受賞者に渡されるらしい)は、式の時だけ渡されて、後で返さなきゃならないものらしいですね。でも、私はぜひ持ち帰りたい……。おい、扉を固めろ。誰も出すんじゃないぞ。―みなさん、出入り口にいるのは私の友人たちです。ご婦人がたは、お静かに。抵抗しなければ手荒なまねはしません……” もちろん冗談ですが、マクベイン氏はダイヤモンドダガーを強奪するという演出で、スピーチをしたのです。 一ファンとして、『アホな悪ふざけをするアメリカ人に権威ある賞をやるのではなかった、と、英国の紳士淑女に思われなかったかしら……』と心配になったものです。 そんなマクベイン氏も、亡くなってずいぶん(10年くらい?)になります。 “『87分署シリーズ』の最終巻は『Exit』というタイトルで、もう書いて金庫に入れてある。私の死後に発表されるだろう”と言っていたように記憶しているのですが、実際の最終作は、『最後の旋律』という作品みたい。 あれも、冗談だったのかな……。悪戯っぽい笑みを残して、さっと出口から姿を消してしまった印象のある作家でした。 遅きに失しましたが、ご冥福をお祈りいたします。 |