ETV特集の『ハーバード白熱教室@東京大学』を観ました。
ニュースで一部を観て以来、興味を持っていたので、その概要を観られたのはラッキーだと思いました。
テーマは『正義』、という非常にデリケートかつタフな問題。それを、《イチローの年俸は正当か?》という身近な議論から始まって、最後は戦争、というグローバルかつ、人間の根源的な問題に辿りつくディベートの流れに、すっかり引き込まれました。
そうして、最高学府の学生さんたちには及ぶべくもないのですが、一応自分なりの意見を思い描きつつ観ました。
私は、オバマ大統領よりイチローの年俸が高額であるのには賛成でした。彼はその才能で人を楽しませたり、ときには力づけもするし、また夢の体現者でもあると思ったからです。たとえ裕福な家に生まれなくても、才能と努力さえあれば、富と成功をつかむことができる。そう子どもたちに思われる、人生は悪くない、ということを示すドリームメイカーだと思うのです。
一方大統領は、“大統領のように働く”(非常にハードであるということ)という言葉の通り、大変多忙で、精神的にも重圧のかかる責任の重い仕事ですから、ある程度の年俸の高さは必要だと思います。ただ、高すぎてはいけないと思うのです。
大統領は反対に、富や成功を求める人ではいけない、という気がするのです。人々のために自分のすべてをささげる覚悟のある、奉仕者であってほしい、と思ってしまうのでした。
東大入学を金で買う議論は、反対意見でしたが、多少揺らぐ心もありました。家族が犯罪を犯した、というケースはもっと迷いました。
そうして、過去の戦争責任に関する問題。もし、私が日本の戦争責任について他国の人に強く責められた場合、たぶん、私が直接やったことではないのに、と理不尽さに憤ったり、怒りを感じたりすると思います。
けれど一方で、相手が100%理不尽ではない、と心のどこかで感じるだろうし、自分に責任がない、とは思えないだろうとも考えました。
けれど、アメリカは日本に原爆を投下したし、例えば日の沈まぬ国と言われたかつての大英帝国も、相当なことをしたわけで、日本ばかり謝罪を求められるのは結局のところ敗戦国だからではないか、強いものは謝らなくていいが、弱いものは謝らなければならないのはフェアじゃない、という気持ちもありました。
その点、サンデル教授の論点では両方の立場がちゃんと触れられていたのは嬉しいことでした。
そうして、教授は、“戦争ほど人々が正義についてそれぞれの考えを持ち、本気で議論を戦わせる問題はない”というようなことをおっしゃっていたと思いますが、そうだ、戦争と正義は非常に結びつきやすいのだ、とも思いました。
「これは悪の戦争で、罪もないひとを大量に殺すが、自国の利益のためにしかたないのである」などという政治家はどこの国にもいないので、決まって、「これは正義の戦争である」というのですよね。
正義という非常に大切なものが、非常に危険なものにもなりうる。正義という美酒に酔いすぎてはならないのだ、とも思いました。
また、教授がディベートこそ重要だといい、正義について定義づけなかったのも嬉しいことでした。
誰の言葉か忘れてしまいましたが、《私は君の意見に反対だ。けれど、君がその意見を言う権利は、命をかけて守る》という言葉が好きなのです。個人的には、この言葉を連想させる授業でした。
私にとっては、とても興味深かった1時間半でした。