ダマスクローズは西暦1300年の頃には、既にこの世から姿を消しているという指摘があります。そうかもしれません。もう少し、といっても書き物の形で残っている範囲でのことですが、少し遡って調べてみようと思います。
これまで見てきた写本の中で、薔薇の花は、食べ物というよりも、薬(スパイス)としての効用に重きを置いて受け止められてきたように思うのです。そこで、“Naturalis Historia” に注目しました。
“ Naturalis Historia:博物誌 ” は古代ローマのガイウス・プリニウス・セクンドゥス ( Gaius Plinius Secundus、23年 – 79/8 or ca.78/10/25 ) が著した書で、全37巻からなり地理学、天文学、動植物や鉱物などあらゆる事柄に触れています。数多くのそれまでの書物をも参照しており、本人が直接見聞、検証した事柄だけではないため荒唐無稽な記述もありますが、1400年に入って発明された活版印刷により、ヨーロッパの知識人たちに愛読、引用されてきた本です。そのことは、これから御覧に入れる数種の写本からも納得されることでしょう。
Naturalis Historia, 1669 edition, title page. The title at the top reads: "Volume I of the Natural History of Gaius Plinius Secundus".
これは1669年に刊行された博物誌の表紙絵です。よく引用されているので取り上げました。下に取り上げたものは1460-1480年代に印刷されたものです。
Pliny the Elder, born 23 - died 79 Rome (made) Date: ca. 1460-1470 (made)
Miniatore dei Piccolomini (artist)
Materials and Techniques: Ink, pigments and gold on parchment. Leather binding.
Museum number: MSL/1896/1504 Gallery location: National Art Library
Manuscript of Pliny the Elder (23-79 A.D.), in : "Natural History", 1481 Private Collection
Pliny the Elder, Historia naturalis, Italian trans. by Cristoforo Landino
(Venice: Nicolaus Jenson, 1476) Grylls 2.184, fol. [c2] r
人気のあったことが窺えますが、書かれてから1400年あまりもたった本が何故このようにもてはやされたのか。一言で言えば、1400年も1500年経っていてもその内容は、彼らにとっては目新しい、斬新な、無視しえない内容だったからではないでしょうか。キリスト教の教義でもってしても排除できない程に強固な構造をした、現実に密着した内容だったからでしょう。
この中から最初に取り上げるのは、狂犬病に関する記事です。(それにしても、教会の書写室内でこのような古代ローマ帝国時代に書かれた本を、2,000年にもわたって写本を繰り返していた聖職者がいたなんて、しかもキリスト教の教義に反した内容;詰まるところ神以外の存在がものを作るという、驚きの一言です!)
Naturalis Historia からの引用文は他の文章と区別するため二重カギカッコの中に入れておくことにします。