ペダニウス・ディオスコリデス(Pedanius Dioscorides)Material Medica AD 50-60 から — Common Rose, French Rose — Oil of Roses
『ローズオイル(Rosaceum oil)は次のように作ります。イグサ※を5ポンド8オンス、オイルを20ポンド5オンス用意する。イグサを水に浸して潰す。ボイルして混ぜる。20ポンド5オンスのオイルを漉す。乾燥した薔薇の花びらを1000枚入れ、手に蜂蜜をつけてこする。上下にやさしく擦る。一晩おいて押し固める。
澱が沈んだら容れものを取り替えて蜂蜜を塗った大きなボールに入れる。漉した薔薇を
小さなボールに入れてその中に濃縮したオイルを8ポンド5オンス入れて再び濃し、二回目絞りとする。3回目、4回目も同じように薔薇絞り、オイルを得ます。毎回内側に蜂蜜を塗った容れものを用意する。2度薔薇の花びらを入れるときは新しい乾燥した薔薇の花を使ってください。』
※イグサ ジュンクス・エフゥスス Juncus effususから引用させていただきました。
Rosaceumを軟膏、コンフェクションに利用したようです。イグサ(Juncus effusus )は古い書物にたびたび顔を出す薬草です。下のサイトからその薬効を教えていただきました。
王樹製薬「森田洋 著 驚くべきイグサの機能性~敷いても健康,食べても健康~」 2002 https://yasukagawa.com/html/igusamorita1.htm
『利尿薬,消炎薬としてかつて使われていた経緯があるイグサですが、0157以外の多くの食中毒細菌や腐敗細菌に対しても抗菌作用がありました。イグサはどのような微生物に対して抗菌性を発揮したかというと,サルモネラ菌,黄色ブドウ球菌,大腸菌026、0111(大腸菌0157と同じ腸管出血性大腸菌の仲間),枯草菌やミクロコッカス菌でありました。だいたいどのぐらいのイグサの濃度で抗菌性を発揮したかというと,イグサ濃度 0.78~100 μg/mlぐらいの範囲で抗菌性が認められました。イグサは酸性域で特に安定でした。腸内における有用な細菌類(Bifidobacterium bifidium,Enterococcus faecalis ,Enterococcus faecium, Streptococcus bovis)についても抗菌性は認められませんでした。』
古代ギリシャ、ローマの薬草学がいかに優れていたかを示す好例です。もう一例。
5-35. PINOS RODITES suggested : Rosa canina, Rosa rugosa—Rose Wine
Reditesの作り方。
『1ポンドの、乾燥させて叩いた薔薇を束ねて亜麻の布の中に入れる。それを8パイントの葡萄汁の中に入れる。3ヶ月後、漉して瓶に入れて保存する。発熱、胃の消化不良に、食事の後に1杯飲む。下痢の時にも同様に服用します。薔薇のジュースと蜂蜜を混ぜて作ったものはrhodomeliといって喉の荒れに効果があります。』
さらに遡って、紀元前のギリシャの植物学の祖といわれたテオプラストス( Theophrastus、BC371 –BC287)の『植物誌』から。
6.6.5
『花びらの数、花びらの滑らかさ、色、香り、薔薇には様々な種類があります。殆どの薔薇の花は5枚、幾つかは12枚或いは20枚。たくさんの花びらの薔薇もあるそうで100枚の薔薇もあるそうだ。そのような薔薇はギリシャのピリッポイ(Philippi)近辺で育てていて、パンガイオンの丘※(Mount Pangaeus;カバラから約40 kmのギリシャの山脈の一部分。ヘロドトスも 『偉大なる山、銀、金を産するパンガイオン。』と讃えた。)から移植したということです。
内側の花びらは非常に小さい。香りがなくて大きな花びらではないもの。大きな花びらで花びらの裏側がざらついているものは香りがいい。よく言われているように、色と香りのいいものは土地柄が影響しているようだ。土が同じでブッシュの中で育っていても甘い香りのいい薔薇、香りのない薔薇はあるようだ。最も良い香りの薔薇はキュレネ(Cyrene;現リビア領内にあった古代ギリシャ都市)の薔薇だ。これで作る香水は最も香り高い。Gilliflowers(麝香ナデシコ)※の香りも他の花も、特にサフランの香りは(この花は場所によってばらつきが大きいが)この地のものが一番優れている。
薔薇は種から増やす事ができる。種は紅花やアザミ※ように花の下にある 'apple'(リンゴの形をしたもの )の中にあります。紅花やアザミにはうぶげがあるがそれは種の冠毛だ。種から育てると時間がかかるので、茎を切ってそれを植えているようだ。
薔薇の茂みは、焼いたり、切り取ると、今までよりも良い花が咲くようになります。 放っておくと茂りすぎる。 時々移植したほうがバラにとっていいようです。 野生種は茎と葉の両方が粗く、花も鈍い色の小さな花になってしまいます。』
※パンガイオンの丘
https://www.ethnos.gr/travel/74132_dytiko-paggaio-potamia-faraggia-kai-paradosiakoi-oikismoi
※ Gillyflower( 別名colve pink, gilliflower, ニオイセキチク )
中世ヨーロッパで料理にクローブの香に似ているので、その代用として盛んに使われたハーブです。
※ アザミ Chamaeleon gummife (カーリーナグミフェラ, キク科 チャボアザミ属 )
どこかで見たことのあるような内容だと思われるでしょう。少し前に引用したプリニウス(AD 23/24–79))の『博物誌』の中にありました。テオプラストス(BC371 –BC287)の仕事が如何に優れていたかを示しています。