52.ローズ
この前に指図したとおりの(誤記)濃いミルクを用意する。そこに砂糖、たくさんの松の実を入れる。ミンスしたデイツ、シナモン、パウダージンジャーを入れて煮る。ホワイトローズの花びら、米の粉を入れて混ぜる。冷ます。塩をしてデイッシュに入れる。アーモンドミルクの代わりに牛のクリームを使うことができる。
一行目左半分は転写ミスです。
濃いアーモンドミルクに白い砂糖、松の実、デイツ、シナモン、ジンジャーを入れて煮ます。白い薔薇の花びらはを使った理由は、単なる薔薇の白い花びらという理由だけではなく、白い花びらが醸し出す香りを狙ったところにあります。白いコメの粉は優れたアラブの文化を思わせる趣向です。
177.ポチュ
半クオートの小さい土(陶器)のポットを用意して金のリンゴの詰め物を一杯入れる。又は貴方の手でポットを形作るか又は型の中で同じ詰め物を使って形作る。それを水の中に入れてよく煮る。よく煮えたら土のポットを割ってその詰め物を串に刺してしっかりローストする。十分にローストしたら金のリンゴのように色を付ける。ペイストで小さな弓を作り、フライするか又はグリスで良くローストする。ペイストでポットの耳を作って色を付ける。ペイストで薔薇を作りフライする。金串を刺した場所に茎を差し込む。白又は赤い色を付けてサーヴする。
形をイメージして読まないと像を結ばないレシピです。ポチュとはPotewのことで、ポットを使った料理なのでこの名がついています。
”金のリンゴ“の作り方が前にあってそれを受けてこのレシピがあります。
金のリンゴを作ってツボに入れて煮ます。煮えたところでツボを割ると、金のリンゴのツボが出来上がります。そこに弓の形をしたペイストを差してポットの耳にします。薔薇の花をポットに突き刺して飾ります。
金のリンゴの花瓶に白の薔薇の花と赤の薔薇の花を活けてお客様の前にしつらえるのです。
金のリンゴは『豚肉を細かく挽いて、パウダーフォト、サフラン、塩と混ぜ、そこにカラントを入れてボールを作り卵白を塗る。ボイルしている湯の中で煮る。これを取りだして金串に刺す。よくローストする。細かく刻んだ挽いたパセリを卵、粉と混ぜる。金串の肉に卵を塗る。お望みであればパセリの代りにサフランを使うこともできる。』というもので、レシピによってはロースとした肉に金箔を貼り付けることもあります。
金のリンゴ即ち、黄金のリンゴについて述べようとすると、「ダマスクローズ」と同じくらいの時間を割いて述べなければなりません。ここでは軽く触れておこうと思います。
「黄金のリンゴ」はユーラシアの広い地域で、愛、セクシュアリティ、豊饒、人生、知識、決断、富の象徴としてこの地域に住む人々の心の中に住みついています。 ずーっと昔から言い伝えられてきた、頭の中に巣食っているともいえる「リンゴ」は無数のおとぎ話の中に現れたり、神話や儀式の中でそして絵画や芸術の中でも重要な役割を果たしています。
そんなリンゴに薔薇の花を金のリンゴに挿してお客様の前にお出しするこの料理は、もはや料理の域を超えた、「アントルメ」に他なりません。
この時代の料理書を読んでいて気になるのは、上のこれまでのレシピをご覧になると気づかれると思いますが、材料の量と、調理時間の記載がないことです。これは、この時代の料理書は料理人のために書かれたものではないからです。
王が所蔵し、機会があれば他国の、あるいは他領の貴族に見せるための本だからです。自分が所領している国の豊かさを誇示するために書かれた料理書だからです。凝った料理方法、手に入れ難いスパイスや食材が並んでいるのはそのせいです。
ところで、薔薇の花ですが、白と赤の薔薇の花が同じ時期に手に入るとは、それになぜ薔薇の花なのでしょうか。この時代に人気の花と言えば、薔薇ではなく、カーネーションのはずです。・・・・・・・・・このことは記憶に留めておいてください。