BLロック王子小説「ディスティニーアンダー・グラウンド-ギターとスターに愛され過ぎた王子-」

 ★過去に傷を持つ美貌のロックギタリスト遠藤麻也(まや)。運命の恋人・日向 諒と東京ドームに立つが…

★BLロック王子小説22‐4「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-02-17 21:06:26 | ★ディスティニー22章
(そっか、真樹はもうその頃からずっと恵理ちゃんなんだよなあ…)
 無邪気だった大学生バンドの頃を思い出して、諒は何だか涙が浮かんできた。
 そしてその頃、プロデビューしていて不在だった「真樹のお兄さん」麻也は…
 (…当時の事務所の悪徳社長の愛人ちゃん…っていう噂は本当だったんだろうな…)
「やっぱり血筋なのかな…おじいちゃんも女顔だったのかな…」

 …あの時の諒は、とにかく真樹と恵理の将来が心配になり、
「…っていうか、真樹だけでも真実を知った方がいいんじゃない? お父さんに訊くとか、お位牌の享年とかで推理するとか…」
と、すると直人も、
「うん。真樹見てると、そういう人のひ孫には思えないよね。だから違うという証拠を見つけたいよね。仏壇とこの写真とかは?」
「ないんだよ。その人は早く亡くなってて。
でも、じいちゃんは自分の母親のことは話さなかったっていうから怪しいし…兄貴はそういうこと無関心だから協力してくれないし…みんな怖くて確かめられないんだ」
…そんな話を諒は思い出していた…

 きっとその「遊女」が麻也の曾祖母なのだろう。
 自分の目が曾祖母にもらった緑の目であるように、「魔也さま」の素質を麻也は曾祖父母にもらったのだろう。
 それで遊女のように坂口に抱かれ、お大尽のように「歌う宝石」の俺を抱いていたのだろう、と。
(同じ兄弟でも真樹は真面目なのに…)
 
 でも…
 ベッドに無理やり押し倒す時に、ふわっとなびく麻也の長い黒髪。

 そんなものまで愛しかった。いや今だって、考えるだけで愛しいのに…

★BLロック王子小説22-3「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-02-16 21:18:22 | ★ディスティニー22章
「真樹って、お母さんにはあんまり似てないんだね…」
 直人が何気なく言うと、
「うん…兄貴はじいちゃんにそっくりなんだけど…俺は橋の下から拾われてきたのかも…なんてね。うそうそ。おふくろの弟の叔父さんに似てるって言われる」
「お兄さんはおじいちゃん似?」
(ロックバンドやってる人が?)
 不思議に思った諒が何となく尋ね返すと真樹の表情は曇り、
「うん…それがさ、ウチ、遠藤のひいばあちゃんが2人いて、じいちゃんはどっちから生まれたのか謎なの。」
「いや、こんな大きい家で、昔なら色々な事情もあったんじゃない? 」
文学青年だった諒がフォローしたが、真樹の表情は晴れず、
「うーん、それが、おふくろがずーっと怒ってるんで困るんだよね。ひいじいちゃんの奥さんて、片方はカタギだったんだけど、もう片方は、遊女だったんだよ。」
「えー? どこで知り合ったのぉ?」
そう言ったのは直人だったが、諒も、この辺りは昔はかなりの田舎だったはずなのに、と不思議に思った。
「うーん、この辺って、昔は絹ってか生糸で潤ってたじゃない? だから、横浜の方の店にひいじいちゃんが商売に行って、そのついでに遊びに行って出会っちゃったんじゃないかな。結構人気の遊女だったっていうよ。」
 昔よくあったように、もともとは武家のお姫様で、没落した家のために身売りした女性だったという。
「で、なんで真樹のお母さんが怒り続けるの? 」
「三味線が上手くて美人、ていったって、芸者さんと違って、結局はその、おねんねするのも仕事だったから…」
「はあ~、じゃあ、この家の嫁にするのって、すごい大変だったんじゃないの? 」
 諒は、家風とか、そういうことで言ったつもりだったのだが、真樹にはそうは聞こえなかったらしく、
「うん。ひいじいちゃんは早くに親を亡くして跡を継いだから…」
 親戚が止めるのも聞かず、先祖伝来の田畑の一部を売って身受金を作り、その女性を自由の身にし、正式な妻にしたのだという。
「お妾さんとかじゃないってことは、心から愛していたんだねえ…」
「まあ、ひいじいちゃんの方はそうだったんだろうけど、相手はどうだったかねえ…」
と、真樹はため息をつく。直人は苦笑いして、
「なあに? 女は怖い、ってこと? 」
「うん…今となってはわかんないよねえ…そんなことも含めて、おふくろは怒ってるんだよ。」
 真面目な夫はもちろん、家族がみな真面目な家というのが良くて嫁いできたのに…というわけだ。
 それが、法事の時に、遠い親戚が酔っぱらってつい口にしたのを母は聞いてしまったのだという。
 直人はそれこそ真面目に、
「でも、元は武家のお姫様なんだから、真面目でしょ? 」
 しかし真樹は口を尖らせたまま、
「いやあ、やっぱ、経歴が許せないってことでしょ。それに、わがまま放題だったみたいだし…」
「わがまま?」
 諒と直人がきょとんとしていると、真樹が言うには…
  一日中、奥の座敷で煙管をふかし、家の中のことは女中頭に任せっ放し。やることといえば三味線の稽古と着物選び。
 あとは、年に何回かやってくる「芝居」を見に行くための身ごしらえには女中総動員で大騒ぎ…
「な、なんかすごい人だね…」
「うん…まあ、俺と兄貴は3人でいる時におふくろに聞いただけなんだけどさ。何回も言われてさ、オチは、嫁にはきちんとした家のきちんとした人をもらえ、
なんだけど。」
「ああ、じゃあ、恵理ちゃんなら大丈夫じゃん。」
直人に言われると真樹は、照れて、「もー!!」と言いながら汗拭きタオルを振り回し、一息つくと、
「恵理ちゃんには内緒にしてね…」

★BLロック王子小説22-2「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-02-15 22:10:01 | ★ディスティニー22章
「晴美ちゃん、ごめん、てば。他の人たちとは別れるから、許して…」
「無理、っていうか、諒の本命はあのギターの麻也とかいう人じゃん」
「えっ…」 
諒は絶句した。
 晴美は諒と同じ年で、その時はハタチだった。
 しかし、諒のカノジョたちの中でもいちばん聡明で落ち着いている晴美には一発で見抜かれてしまったということだ。 
 が、諒はあわてて、
「いや、そんなわけないじゃん。何よりあの人は男なんだよ。」
「でも、ステージの上なのに、諒ったらあの人にキスする時だけ、動揺してるんだもん」
「…」 
「ほら図星でしょ?」
 その時の諒は男であるという点で、麻也への気持ちを白状することはできなかった。それでどうにか、
「いや…でも、俺はもう晴美ちゃんなしではいられないもん」 
 それは全くの嘘ではなかった。
 音楽のことや文学のこと、アートなんかの好みが合って、話がすごく盛り上がって…でも…ベッドの中では…初心者なので諒に頼りきっているのが可愛らしくて…
 晴美の方もやっぱり諒を失うのは嫌なわけで…その後もズルズルと付き合い続けて…
 別れた後に、大翔が晴美のお腹にいることがわかって…もう新しい彼氏がいたというのに…
 その後は大変だったが、実家の両親に預けている大翔を見るたび諒は思う。外見は自分に似てしまったけれど、子供のくせにどこか落ち着いたところや賢いところは晴美に似て良かったと。
 晴美の方もあの彼氏と無事結婚したと、諒は父から聞いていた。
 いつの日か大翔を、あの素敵な母親に会わせたいとも諒は強く思っている。
 
(そういや俺、麻也さんの実家に泊まったことがあるんだよな…)
 目がさえてしまった諒は色々なことを思い出す。
 大学に行っていた頃、諒は直人と、真樹の家に泊まりに行ったことがある。ロック同好会で出会った三人の合宿ということで…
 しかし、麻也は前のバンド、プロとは名ばかりにされてしまったバンドで活動していて、父に勘当されていたためにその時家にはいなかった。
 真樹の母の手料理やスイカをごちそうになり…
 2階の広い座敷で合宿らしく雑魚寝させてもらって世間話になったが…

★BLロック王子小説22-1「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-02-11 16:56:46 | ★ディスティニー22章
「麻也さんがあのアイドル…鈴音ちゃんと結婚するって本当ですか?」
 …って、ライブ本番前にそれはないだろうよ…古いつきあいとはいえの誰にもそんなこと言われる筋合いはない…
 
 …諒がソファの上で目を覚ますと、つけっ放しのテレビには、いつも録画している美術の番組が流れっぱなしになっていた。
(…俺…)
 そう、もう武道館は終わっていた。
 それは満身創痍になりながらのツアーの終わりでもあった。
 そして…飛び出していった麻也をソファで待っているうちに、自分は寝てしまったらしい。
(麻也さん…真樹んとこでも泊まってんのかな…) 
 まさか、鈴音や冬弥なんかのガキたちとなんか…
 もうそんなこと考えたくなかった。
 そうなるとテレビに八つ当たりだ。 
「テレビでなんかしゃべってないでテメエの女房なんとかしろよ」
画面の中で絵の感想を語っているのは、諒にずっとつきまとっている女優・関村響子の夫の脚本家だった。諒の種なら貰いうけてもいいと、年下女房可愛さで諒に渋々言ってきた男… 
(今日も一次会には来てたよな…) 
 
 鈴音ちゃん、2枚目のシングルも駄目だったみたい。
 ドラマも上手くいかないみたいだから、パニックみたいよ…
 事務所が焦らせすぎっていわれてるけどね…
 でも、学園ドラマで冬弥と共演して、そっちでつきあってるとも聞いたけど…
(…麻也さんの噂、多過ぎ…)
 
 一人でいると、色んなことを思い出す。
「うちの兄貴…麻也ね、今度のライブに連れてきていいかな? 」
あの時、どうして真樹に、「いいよ」と言ったのだろうと、最近の諒はずっと後悔している。
 ノーと言っていたら今頃は、大翔と、晴美と、平凡な暮らしをしていただろうか。
 いや、その2人とも出会うことはなかったのだ…

 いくら事務所をクビになった兄が見に来てくれると言っても、誰か業界の人を紹介してくれるかも、くらいにしか思っていなかった。
 それが…
 あんな美しくて厳しくて、素敵な人だったなんて…
 その日から諒の「許されない恋」は始まった。
(いくら業界にいたとはいっても、ロックだったら男同士なんて経験ないだろうし…)
 年も上で、プロのバンドの経験者のクセに、初めての「悪魔のキス」を受ける時のウブそうだったこと…
 あの可愛らしさに…ますます溺れていくのを抑えられなくなった。
 それが…
(2000人斬りのMA-YAだったなんて、思ってもみなかった…)
 それで、やっぱり自分がわからなくなって、狂ったように女を求めた。
 一番気が合ったのは晴美だったが、5股がばれて、それどころか、諒がバンドをやっていることを友達から聞きつけ、こっそりライブにも来ていたのだ。
「諒ほどの人が、他にも女の人ができるのは、頭では理解できる。でも、許せない。もう別れたい。」

★BLロック王子小説21-64「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-02-10 22:19:10 | ★ディスティニー21章
 どうして自分を信じてくれないんだ…
 麻也は言葉を失い、部屋に上がる気になれず、玄関のドアを再び開けて部屋を出てしまった。 
 ぐったりしている諒もそれを止めなかった
。追ってきてもくれなかった。
 (逃げるわけじゃない…)
 諒が周りに吹き込まれたことは大方察しがつく。
 麻也もやけを起こして、
(言ってやればよかったのかな、お前の男は
…って…無理だよ…)
 そこまで考えるとさすがにめまいがして、麻也はエレベーターから降りると壁にもたれかかってしまった。
(これからどうしよう、こんな遅い時間に…)
 それにもう日が変わって、今日は諒の25才の誕生日なのだから、戻らないわけにもいけないし…
 (数時間前には武道館に立ってたのに、何でこんな…)