【作品概要】
作 者 : ジェイムス・P・ホーガン
発表年度 : 1977年
出 版 社 : 創元SF文庫
【物語の始まり】
ビクター・ハントは物質と反物質の粒子消滅を専門とする原子物理学者、現在はメタダイン社でトライマグニスコープの開発を行っている。
トライマグニスコープは、ニュートリノ・ビームを三方向から物体に当てて、その物体の内部まで精密に走査するマイクロスコープで、様々な企業から引き合いが殺到していた。実用化に向けた開発が重要な局面を迎えようとしていた頃、会社からの命令でトライマグニスコープを持って国連宇宙軍へ行くことになった。国連宇宙軍で待っていた走査対象は、月で発見された5万年前の人類の遺体だった。
【感 想】
太陽系の惑星は8つ、これらの惑星はチチウス・ボーデの法則という不思議な数列で結ばれています。太陽から各惑星までの距離を太陽〜地球間の距離を=1とした比率で表すと、太陽に近い方から水星(0.39)、金星(0.72)、地球(1.00)、火星(1.52)、木星(5.20)、土星(9.54)、天王星(19.19)、海王星(30.06)ですが、au=0.4 + 0.3 × 2^n(水星 n=-∞、金星 n=0、地球 n=1、・・・・)で数列を計算すると、天王星まではほぼ一致します。これは偶然なのでしょうか。
まぁ、その不思議は置いておき物語に戻ります。ここで、n=3の時、au=2.8となるのですが、対応する惑星はなく、小惑星帯や準惑星ケレスがあるだけです。そこで、一部の科学者の間では、太古には惑星が存在したが、何かの原因で破壊され小惑星帯や準惑星ケレスができたという説があったのです。今では、小惑星や準惑星ケレスの質量をすべて足しても月の質量にも満たないことなどから、惑星破壊説は下火になり太陽系ができた段階で惑星になりきれなかったという説が主流のようですが、物語の中では、5万年前までは小惑星帯の位置にミネルバという人類が住む惑星があり、核戦争によって破壊されたという設定になってます。
ミネルバ、地球、ガニメデで発見された宇宙船、人類の起源、月の起源、進化した異星人など、物語が進むにつれて誕生の謎が少しづつ解明されていきます。この謎解きの出来次第で素晴らしいSFとも言われますし、陳腐な内容と酷評されることもあるのがSF小説です。「星を継ぐもの」が発表されたのは1977年、この物語ではすでにAIによって管理された未来社会が登場していますが、AIによる自動化社会も現実化している今、この物語を読んでもそれほど違和感を感じないということは、作者の未来を読む目が確かだったということです。
この物語でミネルバ出身の種族が2種類が出てきます。2500万年前に栄えた巨人種族ガニメアンと5万年前に栄えた人類種族ルナリアンです。ガニメアンは、個人的な欲を持たず純粋な心を持った種族、科学文明を発達させて恒星間飛行まで行っています。もう一方のルナリアンは、人類の原形種族で個人的な欲を持ち、惑星間飛行の段階で核戦争を起こしミネルバを破壊しています。人類がずっと先の未来まで生存していくにはどのような進化が必要なのかとちょっと考えさせられましたね。科学技術の進歩が必要なのか、人間性を向上させて個人的な欲を段階的に捨てていく必要があるのか、それとも、地球が一つとなり隣の国が隣の県と思えるような政治体制の変革が必要なのか・・・、そんなことまでも意識して書かれている良質なSF小説だと感じました。
なお、本作は、順番に「星を継ぐもの」「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」の3作構成になっています。2作目、3作目になると、これをまとめきれるのかと思えるほどスケールが大きくなっていきますが、最後には提示された謎はすべて明らかになっていて、見事にまとめきっていました。一気に3作、続けて読みました。面白かったです。
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