『ももいろのきりん』 文・中川季枝子 絵・中川宋弥
は、娘が大のお気に入りだった絵本である。
娘が小学校に入ってすぐに、幼稚園の教師をしていた夫の従妹が
娘に買ってくれた本だ。
本好きの娘はその絵本の表紙がぼろぼろになるまで愛読した。
愚かな母親は、『ももいろのきりん』が娘にとってどれほど大切
なものか気づいていなかった。
ある日のこと、私は、いくら注意しても部屋を片付けない娘に怒って、
ぼろぼろになった『ももいろのきりん』を他の物と一緒に捨てたのだ。
しばらくして、娘は、『ももいろのきりん』がいくら探してもないの
とベソをかいていた。
そのとき娘にどう対処したのか、はっきりと覚えていないが、多分、
「お片付けしないあなたが悪いのよ」と突き放したように思う。
娘が大人になってから、娘の本棚に真新しい『ももいろのきりん』の
絵本を見つけた。透明な袋に大切に入れてあった。
いつ買ったのであろうか。
娘にとって本当に大切なものだったのだ。
私は子供の心を理解してやらず、ただ厳しく躾けるばかりの駄目親
だったと反省した。
娘が結婚してからだったか、我が家でお茶を飲みながら雑談していた。
「お母さんはあなたに厳しすぎたわね。大学生の時、帰りが遅くて
頬を平手打ちしたわね」と、私。
「躾だからいいのよ。社会に出てから役に立ったよ」と、娘。
『ももいろのきりん』
お母さんがあなたの所に持って行くね。