浅草公園六区 左端の建物が浅草オペラ館
1944/S19年 荷風66歳
開戦からほぼ2年 足かけ3年を迎え 荷風は年初に現況を総括している
【時局総括】
政府方針は未だ一定しない 何が国是かも不明
文学雑誌が一括発売禁止となったが 学術文芸は無用の長物なのか
無用とすれば文化の進歩を損ない 欧州中世の暗黒時代に戻ってしまう
この愚挙暴挙が成功するなら 国の衰亡を必ず招く
単に武力のみで支那印度南洋の他民族は治められない 現政府の命脈は短い
・・・荷風は街談録ほかでこんなことも綴っている
古書店主から四迷・鴎外・漱石・逍遥・藤村らの書簡等を見せてもらった
これら文献を見て 猪武者らの我武者ら政治を憎まずにはいられない
【さらば浅草オペラ館】
3月末日 浅草オペラ館取り壊しにより最後の公演舞台に出かける
終演後 館主が一座の男女を舞台に集め告別の辞 楽屋頭取が答辞読上げ
答辞を読むうち感極まり泣き出す 男女の芸人4、50人も一斉に涙を啜る
楽屋へ戻っても泣いたり 互いの所番地を交わして別れを惜しんだりする
思い返せば 初めてこの楽屋に来て 踊子の裸など見て喜んでから早7年
オペラ館は 浅草らしい遊蕩無頼の情趣を残す 最後の別天地だった
ある時は殆ど毎日来て遊んでいたが それも今は還らぬ夢となった
踊子らは無知朴訥 瑶蕩無頼だが 表に立つ人の狡猾強欲傲慢さは無い
だから時事に不満の時は ここに来て共に飲食雑談をして心を慰められた
その晩年の慰安場所も無くなると思うと 悲しく切なくなる
・・・オペラ館の場所を当時の地図で調べてみたが分からなかった・・・
浅草公園六区地図 G-dirive ここをクリックで拡大
・・・六区は地図左下 凡例近くの一角 この何処かにオペラ館があった筈
眼についたのが丸に囲まれたパノラマ デカそうだが何だろう?
浅草公園 日本パノラマ館 正面図 by Wikipedia
・・・パノラマ館は劇場の1種で パノラマ像や映画などを入場者に見せた
全国各地に作られたという 一種のブームだったのだろう
【物の値段】
・・・荷風は 4月11日の日誌に 食物の闇値を書いている
因みにこの頃の大卒初任給=70~80円 1升=1.8ℓ 1合=1/10升 1貫=3.75Kg
白米1升=10円 酢1合=1円 食パン1斤=2.4円 鶏肉1羽=25円
鶏卵1個=0.7円 砂糖1貫目=120円 するめ1枚=1円 沢庵1本=5円
醤油1升=10円 バタ1斤=20円・・・
【阿部定事件】
1月18日 数年ぶりにお歌(※)が訪ねて来た
※お歌は荷風の交情16女衆の一人 本名は関根うた
今は芸妓に戻り柳橋に出ているという 夜8時過ぎまで話尽きず
老後戦乱の世に逢えたというのは涙するほど嬉しい
お歌 阿部さだという女と知合い今も往き来しているという
谷中アパートに年下男と同棲 どこか足りないところがある女だという
(以下朱書き) 松過ぎて思はぬ人に逢ふ夜かな
・・・荷風は 阿部さだには関心が無かったようで 上記以外の記述は無い
阿部定事件が起きたのは1936年(昭和11年)5月
坂口安吾が彼女と対談し 印象を書いている・・・
「阿部定さんの印象」坂口安吾~青空文庫へリンク
阿部定 逮捕直後の新聞写真1936年5月20日(by Wikipedia)~みんな笑顔なのはなぜ?
今日は戦争動画へのリンクは無し
それでは明日またお会いしましょう
[Rosey]