初回記載:2018年2月24日 12:00
追加記載:2018年2月24日 18:00
追加記載:2018年2月24日 20:40
追加記載:2018年2月25日 20:00
追加記載:2018年2月26日
Schroth体操療法による臨床試験報告を読みました。
医学論文は科学ですので、科学のルールである「批判」により、
その内容はさらに品質が高められてゆくと考えます。
日本語で書かれた、しかも単なるブログの記載ですから、この臨床報告書を書かれた
研究者の目に留まることは期待もできません。
しかし、日本国内で、Schroth体操を思春期特発性側弯症に対する代替医療として導入を
試みようとしている人たちの目には留まることを期待しています。
そして、何よりも皆さんがこれを読み、そして「考える」為の資料になることを期待して
ここに批判を展開していきたいと思います。
最初に申し上げたいのは、思春期特発性側弯症が原因不明の病気であることから
そして、その患者さんが「こども達」であることから、
この病気には、
・科学をベースとする医学の領域と、
・“なんとしても治したい”という親御さんの心理領域が
混然と一体化してしまっており、何が医学で、何が医学ではないのか、何が科学で、何が非科学なのか
という区別すらできない社会環境が存在している、ということです。
これは日本のみならず、米国も欧州も、そして世界の多くの国々が、このカオスに巻き込まれている、
という事実があります。
このカオスを生み出している原因が、民間療法者のみならず、意図的ではないとしても、
正規の医療従事者により増幅していると感じられることが、私には残念でなりません。
例えば、このStep by stepを初めて訪れた方にとって、どこにも期待した答えがないことに
ガッカリすると思います。
例えば、お子さんが側弯症の疑いありと告げられた親御さんが、インターネットから
この病気の情報を得ようとした場合、どこにも期待している答えがないことに失望し、
最初は奈落の底に落とされたような感情を持つのではないかと想像します。
- 背骨がどんどんと曲がっていく
- 大人になってからも、年に1度~2度ほど曲がりが続いていく
- 最終的には、背中を大きく切り開く脊椎固定術という手術をすることになる
- その手術では、背骨に金属スクリューとロッドを入れるので、背中の曲がりが不自由になる
- この手術は脊髄や神経、血管のすぐそばを手術するので、とても危険が伴うらしい
- 将来の妊娠や出産時に問題がないか、不安だ
- こどもが学校でいじめにあうのではないか、と不安だ
- 手術をしても、様々な合併症や不具合、トラブルがあるらしい
私たちがインターネットを検索するのは、そこに「救い」があることを求めてのことですから、
「救いのない答え」は答えとしては、意味を持ちません。 答えとして失格です。
そして、こういう答えが皆さんの目の前に飛び込んできます。
多くの皆さんが期待する答えがそこにはあります。
- 側弯症は治る
- この療法でこれまでに3500人の患者が治癒している
- 整形外科医も認めた体操療法
- 手術は不要、危険な手術などしなくても大丈夫
- この療法は人間の持つ自然治癒力を引き出すことで、側弯症を克服する
- 整形外科医が匙を投げた患者をこの療法で治した
- 大学の整形外科教授も驚く、この治療成績
子供の数が減少し、1世帯当たり人数は2016年に3人を切り2.47人となりました。
統計上、1世帯当たりのこどもの数は1.7人(2010年)です。
つまり、時代の流れとともに、各家庭での「こども」に対する意味も意識も
変わってきていることは容易に想像できます。
親の愛を注ぐ対象が「ひとり」しかいなければ、子どもが二人、三人の場合と比較して
その子の為に費やそうと考える「費用」は変わってくるでしょう。
子供にそそぐ愛は同じです。
でも、現実として、三人の子どもを育てている家庭と、一人っ子を育てている家庭では
こどもに費やすお金の総量には差があります。
もちろん、各家庭における経済力も関係してきます。
年収1000万円以上で、こどもがひとりの家庭と、
年収500万円で、こどもがふたり、三人の家庭とでは、
現実として病気に対して使えるお金には自ずと違いがあります。
でも、その違いを無視してでも、「治る」ならお金をかけてあげたいと思うのが
親の心、お母さんの気持ち。自分が産んだこどもの為なら、どんなことでもしなければと
思うのが、母親の気持ちです。
ましてや、目の前に「あなたのこどもの側弯症は治りますよ」と語りかけられたら
心理的に追い詰められているお母さんは、その言葉を疑ることなく飛びつきます。
たとえ、その治療方法が不確実なものであったとしても、
例えば、100人のうち たったひとりでも、その治療方法で治ったという話を聞けば
その「たった一人」にうちの子どもが当てはまらないとは、誰も言えないのだから
その治療法に賭けることをどうして諦めることができるでしょう。
何もしないで、後で悔やむくらいなら、やるだけのことをしたと思うほうが納得できる。
お金をケチったから、カーブが進行したのだ、と後から悔やみたくない。
お金ならだすと祖父母も申し出てくれているのだから。
体操すること自体は、スポーツと同じで、身体に悪いことではないだろうし。
治った、という人がいるのだから、まったくの嘘でもないだろう。
(......スポーツと同じなのですから、スポーツに汗を流させる。と考えることも
できると思うのですが....)
このように考えるのは、人間の感情として自然のことだと思います。
これは「こころ」のことですから、
体操など意味がないことだから、やめたほうが良いとは私も申せません。
もちろん、側弯カーブを減少させる効果があるから、実施したほうが良いとは言いません。
でも「こころ」から離れて、経済面から考えたらどうなるでしょう。
もし体操にせよ、整体のような治療法にせよ、
それが家庭の負担が最小で、国の保険で賄われるような状態であるならば
ここまで何度も何度も、それが無駄であると述べることもしないかもしれません。
しかし、医学的現実として、整体はもとよりのこと、体操もその効果は確認されていません。
ですから、家庭の負担は、重くのしかかってくることになります。
思春期特発性側弯症の治療には長い年月がかかります。
仮に、インターネットで探した側弯整体に通ったとして、
月に数万円はかかるでしょう。 5万円としても、5万x12カ月=60万円
これが2年は続くと思います。 つまり120万円。
それでもカーブは進行し続けるかもしれません。3年で 180万円。
この年頃のこどもは、学習塾やスポーツジムなどにも通いだす頃です。
その費用が、月に2万~5万円として、年間24万~60万円。
そしてこの費用は、2年や3年ではありません。お子さんが、大学に入る頃まで続きます。
一人っ子だったら、なんとかやりくりできるかもしれません。
でも、お子さんが二人であるとしたら、三人であるとしたら、
「効果の証明されていない」治療に、どこまでお金をつぎ込むことができるでしょう?
整体にせよ、体操療法にしても、それで「治る」という医学的事実があるのならば
費やしたお金は、「生きたお金」となります。
でも、それが何も証明されていないとしたら、
そのお金の意味はどこにあったことになるのでしょう。
この思春期特発性側弯症は、現時点で、「こういうことだろう」という治療上の
目安(メルクマール)は存在します。
しかし、それも全てのお子さんを完全に側弯カープの進行から守る、
というものではないのも事実です。
メルクマールとして示されているものは、「可能性」や「確率」としてのデータです。
そのデータに「賭ける」か「賭けないか」という次元に収れんされる性質のものです。
しかし、それが「賭け」であるとしても、
いいえ「賭け」だからこそ、
皆さんの前に提示されるデータは、より正確なものであるべきだと考えます。
私の目から見て、どこにSchroth側弯体操報告書に疑問があるかを述べる前に、
臨床報告データの比較という意味で、装具療法や自然経過などの報告データを
まず最初にご提示します。
◇ B.Stephens Richards et al; Standardization of Criteria for Adolescent Idiopathic
Scoliosis Brace Studies. SRS Committee on Bracing and Nonoperative Management.
SPINE volume 30, Number 18, pp 2068-2075. 2005.
思春期特発性側弯症に対する装具療法調査法の標準化
これは2005年に SRS(アメリカ側弯症学会)の装具保存療法委員会
が作成した装具を用いた臨床調査を実施する際の標準的方法を示したものです。
試験方法の標準化を図る、という目的で記載されたものですが、この背景には、過去に実施されてきた
臨床研究で、効果があるという報告もあれば、効果がないという報告もあり、そのように評価・結果が
異なることの原因のひとつとして、試験方法(測定項目等)がバラバラで統一されておらず、
効果あり報告も効果なし報告も、どちらが正しいとか、どちらが誤っているという判断を行うこと自体に
意味がなく、データを適正に評価する為には、基準となる試験方法(測定項目)を定め、
その基準に則った試験を実施することを提案したもの、と言えます。
Brace treatment has been used for the nonoperative treatment of adolescent idiopathic
scoliosis (AIS) for nearly 45 years. During this period, there have been numerous
studies in the literature that summarize theresults of treatment.
Many of thesereports supportthe effectiveness of an orthosis in preventingcurve
progression and the need for surgical intervention. However, there areother studies
that suggestareotherbracing may not be effective
「装具療法は思春期特発性側弯症に対する保存治療として、これまで 約45年 実施されてきた。
この45年間に、数多くの臨床研究が実施され、装具には側弯症の進行するカープを抑制する効果がある
という報告も数多くなされてきた。しかし、効果はない、という報告も多数存在した。」
同委員会がレビューした過去の装具療法に関する臨床研究32本が一覧表として提示されているのですが、
その一部コピーを下に示しました。
これらの実施された年代は、1980,1981,1986,1988,1989,1990,1993,1995,1996,1997,2001,2002,2003,
2004に渡るものであり、研究参加患者数は、25,42,44,47,50,51,55,64,67,69,71,85,98,100,102,112,
127,133,162,169,170,188,195,244,286,295,319,1020という大人数によるものであり、
対象装具は、Milwaukee,TLSO,Boston,Charlston,Providence,Spinecor,Rosenberger,Wilmingtonの
8種類、コブ角は 最小は12度から最大が82度、最終フォローアップが 1.1年、1.5年、1.9年、2.6年、
2.7年、3.3年、4.8年、6年、8年、13年、14.6年 という長期に渡るものを含むものであり、
試験タイプも、Restospective(後ろ向き)、Prospective(前向き)、ランダマイズ(くじ引き)、単施設、
多施設、装具vs経過観察のみの比較など、多様な試験を含むものでした。
多様な試験が数多く実施されたことにより得られたデータも大きかったわけですが、逆に、試験方法(観察項目
評価項目)が統一されていなかった為に、得られた試験結果も多様.....装具は効果ある・装具は効果ない
という、患者さんにとっても、また治療する側の医師にとっても、どう考えて治療を進めていけば良いのか
悩ましい状態が続いていたことになります。
この状態を解決する為に提案された内容が、次のとおりです。
1. 試験患者年齢 10歳以上、リッサーサイン 0~2、コブ角 25度~40度
2. 効果評価方法
a.試験患者のうち初回測定時と比較してコブ角5度あるいはそれ以下であった患者数の割合
また、骨成熟完了時まてに6度以上進行した患者数の割合
b.試験患者のうち、骨成熟前に試験となったり、試験することが避けられなくなった患者数の割合
(骨成熟完了とは、通常は装具療法の終了時を示すこととする)
c.試験期間中に45度を超えて、手術の必要性が示唆された患者数の割合
d.骨成熟完了で最低2年のフォローアップが終えることができた装具療法として成功した患者と
手術実施やその示唆をされた患者数の割合
3. 骨成熟は6か月の間で身長の伸びが1cm以下となったときと考える。
もし身長測定がなされなかった場合は、リッサーサインが4となったときを。そして女子では
初潮から2年たったときを骨成熟と定義。
4. 装具装着時間は自己申告の内容がどういうものであったとしても、結果の中に加える。
これは -intent to treat 治療意図の原則による解析-として分析することができる。
(定められた時間の装着をしていなかった患者も、装着を守っていたと考えること)
“有効性分析”では、遵守していない患者は結果から抜き出すことができる。
遵守状況のデータは完全に検証されたものであるべきで、客観的に測定すべきである。
現在、これらの目的を達成するために必要なデータロガー測定は
リサーチツールとして使用されている。将来は、装着状態を温度や圧力で測定することが
可能となるであろう。これにより遵守状況は客観的なデータを得ることが可能となる。
5. すべての研究は、カーブタイプ、カーブの大きさのグループ化、骨成熟度(リッサー0,1,2)を
評価することで、これらのサブグループの変数を研究することができる。
6. 将来の装具調査では、心理的や身体的なパラメータについても調査し評価すべきである。
この文献は、過去40年以上にわたって思春期特発性側弯症治療-装具療法が行われてきたにも関わらず
その効果が定まっていないことを、いわば反省し、1980年~2004年の25年間に絞って、32本の臨床試験
報告を精査した上で、今後実施される臨床試験では、上記に掲げた標準的方法で報告書は記載しよう。と
決めたものです。
と、同時に、この25年間の結果を踏まえて、次に示すような、
側弯症を診察、治療を行う上での「患者の有するリスク(今後カーブが進行する可能性)」というものを
定量的に示したことでも大きな意味を持っています。
例えば、年齢が10才以下で、初診時コブ角が20~29度の場合、進行する可能性は100% という具合に見ます。
例えば、初診時コブ角が19度以下で、そのときの年齢が16才以上であれば、進行リスクはゼロ、という具合に見ます。
例えば、リッサーサインが 0~1で、コブ角が20~29度の場合、進行リスクは68%、という具合に見ます。
この文献が報告されたのが 2005年でした。
では、次に、この標準法に従って報告された2005年以降の臨床試験報告を幾つかご紹介します。
◇ スエーデンAina J.Danielsson: A Prospective study of Brace treatment versus observation
alone in adolescent idiopathic scoliosis- a follow up mean 16 years after maturity.
SPINE volume 32, Number 20. pp2198-207. 2007
思春期特発性に対する装具療法 vs 経過観察のみのプロクティブスタディ(前向き研究)
骨成熟完了後、平均16年のフォローアップ結果
(これは SPINE という脊椎外科分野では一流の専門誌に掲載された文献です)
・1985~1989年に年齢 10~15才 コブ角25~35度のAIS患者に装具療法群と経過観察のみ群に分けた
臨床試験を実施。 今回はこのときの患者に対するフォローアップ結果をまとめたもの。
・最初の臨床試験後、最小でも10年以上のフォローアップを実施
・フォローアップできたのは、装具群41人、経過観察のみ群65人 全員女性
・最初の臨床試験時の実施基準は、6度以上の進行があった場合はボストンブレースを用いる。カーブが40度を
超えて、患者がまだ身長が伸びる余地がある場合は手術に移行する。ボストンブレース着用の場合は、
骨成熟完了まで22~24時間/日の装着を指示。 16才あるいはリツサーサイン4又は5に達したことをもって
骨成熟完了とした。
・この長期フォローアップの成績は、
装具群41人のうちフォローアップ中に手術となった患者は ゼロ
経過観察のみ群65人のうちフォローアップ中に手術となった患者は 6人
(今回も少しづつ書き進めていきますので、一日に何度かアップを繰り返すことになりますので
ご了承ください)
続く
august03
☞まだ途中ですが、今回のトピックスに関係する資料を見つけました。
内容は「論文著者が掲載料金を支払うオープンアクセスジャーナルについて調べてみました 」に追記として
記載しましたので、そちらを参照していただければと思います。
☞もし初めて step by stepを見つけて、これから病院を探そうとされているかたのために
どこの病院に行けばいいのか、ということをアップしました。
「思春期特発性側弯症の病院選択のひとつとして」
専門病院をリストアップしましたので、参考にされて下さい
追加記載:2018年2月24日 18:00
追加記載:2018年2月24日 20:40
追加記載:2018年2月25日 20:00
追加記載:2018年2月26日
Schroth体操療法による臨床試験報告を読みました。
医学論文は科学ですので、科学のルールである「批判」により、
その内容はさらに品質が高められてゆくと考えます。
日本語で書かれた、しかも単なるブログの記載ですから、この臨床報告書を書かれた
研究者の目に留まることは期待もできません。
しかし、日本国内で、Schroth体操を思春期特発性側弯症に対する代替医療として導入を
試みようとしている人たちの目には留まることを期待しています。
そして、何よりも皆さんがこれを読み、そして「考える」為の資料になることを期待して
ここに批判を展開していきたいと思います。
最初に申し上げたいのは、思春期特発性側弯症が原因不明の病気であることから
そして、その患者さんが「こども達」であることから、
この病気には、
・科学をベースとする医学の領域と、
・“なんとしても治したい”という親御さんの心理領域が
混然と一体化してしまっており、何が医学で、何が医学ではないのか、何が科学で、何が非科学なのか
という区別すらできない社会環境が存在している、ということです。
これは日本のみならず、米国も欧州も、そして世界の多くの国々が、このカオスに巻き込まれている、
という事実があります。
このカオスを生み出している原因が、民間療法者のみならず、意図的ではないとしても、
正規の医療従事者により増幅していると感じられることが、私には残念でなりません。
例えば、このStep by stepを初めて訪れた方にとって、どこにも期待した答えがないことに
ガッカリすると思います。
例えば、お子さんが側弯症の疑いありと告げられた親御さんが、インターネットから
この病気の情報を得ようとした場合、どこにも期待している答えがないことに失望し、
最初は奈落の底に落とされたような感情を持つのではないかと想像します。
- 背骨がどんどんと曲がっていく
- 大人になってからも、年に1度~2度ほど曲がりが続いていく
- 最終的には、背中を大きく切り開く脊椎固定術という手術をすることになる
- その手術では、背骨に金属スクリューとロッドを入れるので、背中の曲がりが不自由になる
- この手術は脊髄や神経、血管のすぐそばを手術するので、とても危険が伴うらしい
- 将来の妊娠や出産時に問題がないか、不安だ
- こどもが学校でいじめにあうのではないか、と不安だ
- 手術をしても、様々な合併症や不具合、トラブルがあるらしい
私たちがインターネットを検索するのは、そこに「救い」があることを求めてのことですから、
「救いのない答え」は答えとしては、意味を持ちません。 答えとして失格です。
そして、こういう答えが皆さんの目の前に飛び込んできます。
多くの皆さんが期待する答えがそこにはあります。
- 側弯症は治る
- この療法でこれまでに3500人の患者が治癒している
- 整形外科医も認めた体操療法
- 手術は不要、危険な手術などしなくても大丈夫
- この療法は人間の持つ自然治癒力を引き出すことで、側弯症を克服する
- 整形外科医が匙を投げた患者をこの療法で治した
- 大学の整形外科教授も驚く、この治療成績
子供の数が減少し、1世帯当たり人数は2016年に3人を切り2.47人となりました。
統計上、1世帯当たりのこどもの数は1.7人(2010年)です。
つまり、時代の流れとともに、各家庭での「こども」に対する意味も意識も
変わってきていることは容易に想像できます。
親の愛を注ぐ対象が「ひとり」しかいなければ、子どもが二人、三人の場合と比較して
その子の為に費やそうと考える「費用」は変わってくるでしょう。
子供にそそぐ愛は同じです。
でも、現実として、三人の子どもを育てている家庭と、一人っ子を育てている家庭では
こどもに費やすお金の総量には差があります。
もちろん、各家庭における経済力も関係してきます。
年収1000万円以上で、こどもがひとりの家庭と、
年収500万円で、こどもがふたり、三人の家庭とでは、
現実として病気に対して使えるお金には自ずと違いがあります。
でも、その違いを無視してでも、「治る」ならお金をかけてあげたいと思うのが
親の心、お母さんの気持ち。自分が産んだこどもの為なら、どんなことでもしなければと
思うのが、母親の気持ちです。
ましてや、目の前に「あなたのこどもの側弯症は治りますよ」と語りかけられたら
心理的に追い詰められているお母さんは、その言葉を疑ることなく飛びつきます。
たとえ、その治療方法が不確実なものであったとしても、
例えば、100人のうち たったひとりでも、その治療方法で治ったという話を聞けば
その「たった一人」にうちの子どもが当てはまらないとは、誰も言えないのだから
その治療法に賭けることをどうして諦めることができるでしょう。
何もしないで、後で悔やむくらいなら、やるだけのことをしたと思うほうが納得できる。
お金をケチったから、カーブが進行したのだ、と後から悔やみたくない。
お金ならだすと祖父母も申し出てくれているのだから。
体操すること自体は、スポーツと同じで、身体に悪いことではないだろうし。
治った、という人がいるのだから、まったくの嘘でもないだろう。
(......スポーツと同じなのですから、スポーツに汗を流させる。と考えることも
できると思うのですが....)
このように考えるのは、人間の感情として自然のことだと思います。
これは「こころ」のことですから、
体操など意味がないことだから、やめたほうが良いとは私も申せません。
もちろん、側弯カーブを減少させる効果があるから、実施したほうが良いとは言いません。
でも「こころ」から離れて、経済面から考えたらどうなるでしょう。
もし体操にせよ、整体のような治療法にせよ、
それが家庭の負担が最小で、国の保険で賄われるような状態であるならば
ここまで何度も何度も、それが無駄であると述べることもしないかもしれません。
しかし、医学的現実として、整体はもとよりのこと、体操もその効果は確認されていません。
ですから、家庭の負担は、重くのしかかってくることになります。
思春期特発性側弯症の治療には長い年月がかかります。
仮に、インターネットで探した側弯整体に通ったとして、
月に数万円はかかるでしょう。 5万円としても、5万x12カ月=60万円
これが2年は続くと思います。 つまり120万円。
それでもカーブは進行し続けるかもしれません。3年で 180万円。
この年頃のこどもは、学習塾やスポーツジムなどにも通いだす頃です。
その費用が、月に2万~5万円として、年間24万~60万円。
そしてこの費用は、2年や3年ではありません。お子さんが、大学に入る頃まで続きます。
一人っ子だったら、なんとかやりくりできるかもしれません。
でも、お子さんが二人であるとしたら、三人であるとしたら、
「効果の証明されていない」治療に、どこまでお金をつぎ込むことができるでしょう?
整体にせよ、体操療法にしても、それで「治る」という医学的事実があるのならば
費やしたお金は、「生きたお金」となります。
でも、それが何も証明されていないとしたら、
そのお金の意味はどこにあったことになるのでしょう。
この思春期特発性側弯症は、現時点で、「こういうことだろう」という治療上の
目安(メルクマール)は存在します。
しかし、それも全てのお子さんを完全に側弯カープの進行から守る、
というものではないのも事実です。
メルクマールとして示されているものは、「可能性」や「確率」としてのデータです。
そのデータに「賭ける」か「賭けないか」という次元に収れんされる性質のものです。
しかし、それが「賭け」であるとしても、
いいえ「賭け」だからこそ、
皆さんの前に提示されるデータは、より正確なものであるべきだと考えます。
私の目から見て、どこにSchroth側弯体操報告書に疑問があるかを述べる前に、
臨床報告データの比較という意味で、装具療法や自然経過などの報告データを
まず最初にご提示します。
◇ B.Stephens Richards et al; Standardization of Criteria for Adolescent Idiopathic
Scoliosis Brace Studies. SRS Committee on Bracing and Nonoperative Management.
SPINE volume 30, Number 18, pp 2068-2075. 2005.
思春期特発性側弯症に対する装具療法調査法の標準化
これは2005年に SRS(アメリカ側弯症学会)の装具保存療法委員会
が作成した装具を用いた臨床調査を実施する際の標準的方法を示したものです。
試験方法の標準化を図る、という目的で記載されたものですが、この背景には、過去に実施されてきた
臨床研究で、効果があるという報告もあれば、効果がないという報告もあり、そのように評価・結果が
異なることの原因のひとつとして、試験方法(測定項目等)がバラバラで統一されておらず、
効果あり報告も効果なし報告も、どちらが正しいとか、どちらが誤っているという判断を行うこと自体に
意味がなく、データを適正に評価する為には、基準となる試験方法(測定項目)を定め、
その基準に則った試験を実施することを提案したもの、と言えます。
Brace treatment has been used for the nonoperative treatment of adolescent idiopathic
scoliosis (AIS) for nearly 45 years. During this period, there have been numerous
studies in the literature that summarize theresults of treatment.
Many of thesereports supportthe effectiveness of an orthosis in preventingcurve
progression and the need for surgical intervention. However, there areother studies
that suggestareotherbracing may not be effective
「装具療法は思春期特発性側弯症に対する保存治療として、これまで 約45年 実施されてきた。
この45年間に、数多くの臨床研究が実施され、装具には側弯症の進行するカープを抑制する効果がある
という報告も数多くなされてきた。しかし、効果はない、という報告も多数存在した。」
同委員会がレビューした過去の装具療法に関する臨床研究32本が一覧表として提示されているのですが、
その一部コピーを下に示しました。
これらの実施された年代は、1980,1981,1986,1988,1989,1990,1993,1995,1996,1997,2001,2002,2003,
2004に渡るものであり、研究参加患者数は、25,42,44,47,50,51,55,64,67,69,71,85,98,100,102,112,
127,133,162,169,170,188,195,244,286,295,319,1020という大人数によるものであり、
対象装具は、Milwaukee,TLSO,Boston,Charlston,Providence,Spinecor,Rosenberger,Wilmingtonの
8種類、コブ角は 最小は12度から最大が82度、最終フォローアップが 1.1年、1.5年、1.9年、2.6年、
2.7年、3.3年、4.8年、6年、8年、13年、14.6年 という長期に渡るものを含むものであり、
試験タイプも、Restospective(後ろ向き)、Prospective(前向き)、ランダマイズ(くじ引き)、単施設、
多施設、装具vs経過観察のみの比較など、多様な試験を含むものでした。
多様な試験が数多く実施されたことにより得られたデータも大きかったわけですが、逆に、試験方法(観察項目
評価項目)が統一されていなかった為に、得られた試験結果も多様.....装具は効果ある・装具は効果ない
という、患者さんにとっても、また治療する側の医師にとっても、どう考えて治療を進めていけば良いのか
悩ましい状態が続いていたことになります。
この状態を解決する為に提案された内容が、次のとおりです。
1. 試験患者年齢 10歳以上、リッサーサイン 0~2、コブ角 25度~40度
2. 効果評価方法
a.試験患者のうち初回測定時と比較してコブ角5度あるいはそれ以下であった患者数の割合
また、骨成熟完了時まてに6度以上進行した患者数の割合
b.試験患者のうち、骨成熟前に試験となったり、試験することが避けられなくなった患者数の割合
(骨成熟完了とは、通常は装具療法の終了時を示すこととする)
c.試験期間中に45度を超えて、手術の必要性が示唆された患者数の割合
d.骨成熟完了で最低2年のフォローアップが終えることができた装具療法として成功した患者と
手術実施やその示唆をされた患者数の割合
3. 骨成熟は6か月の間で身長の伸びが1cm以下となったときと考える。
もし身長測定がなされなかった場合は、リッサーサインが4となったときを。そして女子では
初潮から2年たったときを骨成熟と定義。
4. 装具装着時間は自己申告の内容がどういうものであったとしても、結果の中に加える。
これは -intent to treat 治療意図の原則による解析-として分析することができる。
(定められた時間の装着をしていなかった患者も、装着を守っていたと考えること)
“有効性分析”では、遵守していない患者は結果から抜き出すことができる。
遵守状況のデータは完全に検証されたものであるべきで、客観的に測定すべきである。
現在、これらの目的を達成するために必要なデータロガー測定は
リサーチツールとして使用されている。将来は、装着状態を温度や圧力で測定することが
可能となるであろう。これにより遵守状況は客観的なデータを得ることが可能となる。
5. すべての研究は、カーブタイプ、カーブの大きさのグループ化、骨成熟度(リッサー0,1,2)を
評価することで、これらのサブグループの変数を研究することができる。
6. 将来の装具調査では、心理的や身体的なパラメータについても調査し評価すべきである。
この文献は、過去40年以上にわたって思春期特発性側弯症治療-装具療法が行われてきたにも関わらず
その効果が定まっていないことを、いわば反省し、1980年~2004年の25年間に絞って、32本の臨床試験
報告を精査した上で、今後実施される臨床試験では、上記に掲げた標準的方法で報告書は記載しよう。と
決めたものです。
と、同時に、この25年間の結果を踏まえて、次に示すような、
側弯症を診察、治療を行う上での「患者の有するリスク(今後カーブが進行する可能性)」というものを
定量的に示したことでも大きな意味を持っています。
例えば、年齢が10才以下で、初診時コブ角が20~29度の場合、進行する可能性は100% という具合に見ます。
例えば、初診時コブ角が19度以下で、そのときの年齢が16才以上であれば、進行リスクはゼロ、という具合に見ます。
例えば、リッサーサインが 0~1で、コブ角が20~29度の場合、進行リスクは68%、という具合に見ます。
この文献が報告されたのが 2005年でした。
では、次に、この標準法に従って報告された2005年以降の臨床試験報告を幾つかご紹介します。
◇ スエーデンAina J.Danielsson: A Prospective study of Brace treatment versus observation
alone in adolescent idiopathic scoliosis- a follow up mean 16 years after maturity.
SPINE volume 32, Number 20. pp2198-207. 2007
思春期特発性に対する装具療法 vs 経過観察のみのプロクティブスタディ(前向き研究)
骨成熟完了後、平均16年のフォローアップ結果
(これは SPINE という脊椎外科分野では一流の専門誌に掲載された文献です)
・1985~1989年に年齢 10~15才 コブ角25~35度のAIS患者に装具療法群と経過観察のみ群に分けた
臨床試験を実施。 今回はこのときの患者に対するフォローアップ結果をまとめたもの。
・最初の臨床試験後、最小でも10年以上のフォローアップを実施
・フォローアップできたのは、装具群41人、経過観察のみ群65人 全員女性
・最初の臨床試験時の実施基準は、6度以上の進行があった場合はボストンブレースを用いる。カーブが40度を
超えて、患者がまだ身長が伸びる余地がある場合は手術に移行する。ボストンブレース着用の場合は、
骨成熟完了まで22~24時間/日の装着を指示。 16才あるいはリツサーサイン4又は5に達したことをもって
骨成熟完了とした。
・この長期フォローアップの成績は、
装具群41人のうちフォローアップ中に手術となった患者は ゼロ
経過観察のみ群65人のうちフォローアップ中に手術となった患者は 6人
(今回も少しづつ書き進めていきますので、一日に何度かアップを繰り返すことになりますので
ご了承ください)
続く
august03
☞まだ途中ですが、今回のトピックスに関係する資料を見つけました。
内容は「論文著者が掲載料金を支払うオープンアクセスジャーナルについて調べてみました 」に追記として
記載しましたので、そちらを参照していただければと思います。
☞もし初めて step by stepを見つけて、これから病院を探そうとされているかたのために
どこの病院に行けばいいのか、ということをアップしました。
「思春期特発性側弯症の病院選択のひとつとして」
専門病院をリストアップしましたので、参考にされて下さい