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脚長差に関する国内研究報告を集めてみました part 1

2017-11-20 00:38:08 | 脚長差と側弯症
初回記載:2017年11月20日

脚長差に関して、それが側弯とは直接的には関係のないものも含めて、グーグル検索で集められた資料を並べてみました。患者さんのお役には立てないかもしれませんが、ご興味のある方には勉強材料になると思います。


理学療法学 2017 vol44 suppl No.2 より引用 (一部省略箇所あり)

◇「軽度脚長差による歩行時の体幹・下肢への運動学、力学的影響」
山形県立河北病院・公立高畠病院・山形市立病院済生館・山形県立保健医療大学

【目的】脚長差が3cm 以内の場合,身体各部位の代償動作により歩行において外観的な異常を認めないという報告や,3cm 以内の脚長差であっても歩行時の重心偏位や体幹・骨盤の過度の傾斜,跛行などが生じることを指摘する報告もあり,分析方法により見解が異なる。本研究では体幹・下肢の運動学,力学的因子に注目し,3cm 以内の軽度な脚長差による歩行への影響を明らかにすることを目的とした。
・対象は健常成人女性21 名(年齢21.6±0.8 歳,体重52.1±7.2kg,身長159.5±5.5cm)
【結果】
・上下方向重心移動は0~3cm の各条件間で有意差があり(脚長差0cm:36.6mm,1cm:39.9mm,2cm:43.6mm,3cm:48.0mm)脚長差増大に伴い増加
・骨盤及び骨盤に対する体幹側屈角度は1cm 以上の脚長
【結論】1cm の脚長差であっても膝関節伸展や股関節外転,骨盤側方傾斜角度などへの影響が生じることがわかった。また,軽度の脚長差によって見かけ上明らかな歩容の変化がみられなくとも,骨盤や下肢関節に非対称な動きをもたらし,重心移動や床反力のような運動力学的因子にも影響を与えることが示唆された。これらは長期間継続することで身体アライメント異常や関節変形を生じる可能性があるため,軽度の脚長差でも介入を検討する必要性がある。

☞発表者名は未記載とさせていただきました
☞下線はaugust03によるものです。


引用は、
◇2009年 腰痛を有する大学陸上競技選手の身体的特徴  体力科学2009 58.
対象
・N大学陸上競技部 男子選手21名(年齢19.6±1.1才、身長173.6±4.6cm、体重64.8±4.4kg,競技歴6.9±2.3年)
・評価指標 大腿周径(COT)、脚長差、Muscle tightness test 他
・脚長差は、下肢長における左右差とした
・結果   脚長差 対象群11人 0.1±0.3mm, コントロール群 0mm

☞下線はaugust03によるものです。
☞著者名・調査施設名は未記載とさせていただきました。


引用は
◇1986年 陸上競技選手の骨盤傾斜、脊柱側彎、脚長力差および下肢の障害に及ぼす
     脚長差の影響  三好基治(東海大学医学部生理学教室) 体力科学1986 35.

・緒言 人体の構造はその発生,成長過程から考えても左右対象的ではなく,上下肢のようにあたかも対象的にみえるものでも,厳密に測定すれば常に左右の差がみられるものである.しかし,この左右差がある程度以上になれば種々の異常,障害をもたらしてくることが考えられるわけで,生理的に正常な機能を保持し得る限界が自ずと定められてくることになろう。
・実験方法
被験者 短距離選手15名,長距離選手20名,跳躍選手17名,計52名(18才~23才)の男子大学陸上競技部員 競技経験6~10年
対照群 中学からまったく運動部活動をしてない未経験者男子5名(21~24才)

脚長差の測定法は種々報告されているが本実験では図1のように,まず,水平の床面に自然体で直立させ,フィルム上に垂線が入るように立位正面腰部単純X線写真を撮り,左右両側の大腿骨頭最上端部より水平線を引き,左右両骨頭差をもって下肢全体の脚長差とした.

結果 
・全被験者52名について行った脚長の測定では,その90.4%に当る47名に左右差が認められた
・大腿骨,脛骨の長さに左右差が認められた
・運動群と対照群の脚長差と骨盤傾斜の関係については,表2に示すように
 
       運動群    対象群
 脚長差   6.2±4.7mm  3.4±4.9mm,
 骨盤傾斜  3.3±2.5度  1.6±2.1度
 
 統計的には有意差はないものの,平均値においてはそれぞれ2倍近い差がみられた.

考察
・左右脚長差と骨盤傾斜との間には有意な正の相関関係がみられている.この事実は左右の脚長差を代償すべく,骨盤傾斜の生ずることを示している.
・脚長差発生に対する改善と対策であるが,KleinとBuckley9は,発育過程にある子供の場合62%の子供がヒール・リフト法(踵に足底挿入板などを入れ短脚側の踵の挙上をする)を行うことにより,4~6ヶ月間のうちに左右非対称性が完治したのに対し,何も行わなかった対照群では同期間中に左右非対称性の程度が増加していた,と述べているが,骨形成が完了してた18才以降(大学入学後)では,その矯正はなかなか困難なことになる.


表は同文献より引用



表は同文献より引用



☞この陸上選手の脚長差調査は、年代は異なりますが同じ専門誌に掲載されたものです
☞特殊な部位の計測においては、どういう方法を用いたのかを明確に記載しておくことで、そのデータが後年にも有意義に (かつ信頼性を持って) 利用することが可能となることを示した一例としてここに引用させていただきました。


と、同時に「レントゲン撮影での誤差」という面も忘れることができません。
同時代 1990年の日本放射線技術学会誌 第46巻2号の「脚長差計測撮影における誤差について」北海道立札幌肢体不自由児総合療育センター 川上直樹先生の発表によりますと、
エックス線が拡散投影光のため、焦点から離れるにしたがって誤差が大きくなり、正確な計測の障害になること。計測誤差は6mm程度あることが報告されています。つまり、上記の陸上選手の計測結果にも、「誤差」が完全にゼロとは言い切れません。

こういう課題がつねに伴いますので、医学的傾向とか医学的知見というものは、同じような課題に対して、立場や病院の異なる複数の医師が、複数の試験を繰り返して、やがてそれらのデータの蓄積の中から、ようやく医学的事実が見えてくる。という経過をたどり、一般化され、治療方針へと繋がっていくという道筋をとおるものです。

今月は、Schrothシュロス体操、ATR angle of tunk rotation (スコリオメーター)、
さらにこの脚長差に関する文献を読んでいるわけですが、これら3分野ともに共通すると思われた課題が、ものごとの定義がなされているのか? その定義は検証されたものなのか、データの再現性はあるのか? ということです。 ATR(スコリオメーター)も、この脚長差検査も、検査である限り「誤差」は発生します。医療の現場では、その誤差を加味したうえで、医学的判断や治療方針が立てられていると思います。また、医学データの報告にあたっても、その誤差を加味したうえで、その研究の限界というものを論文の最終章にて記述することで、次の研究者は、その限界を加味して、その研究を土台として、次のステップを検討していくことが可能となります。そういう意味で、Schrothシュロスは、論文の信頼性もそうですが、自画自賛、結果報告を針小棒大化している印象があり、ネット上にあふれる宣伝文句「成績良好」「側弯を治せる」「臨床データがある」という言葉は、患者さんをミスリードしていると感じているところです。




☞august03は、メディカルドクターではありません。治療、治療方針等に関しまして、必ず主治医の先生とご相談してください。 医学文献の拙訳を提示しておりますが、詳細においてはミスが存在することも否定できません。もしこれらの内容で気になったことを主治医の先生に話された場合、先生からミスを指摘される可能性があることを前提として、先生とお話しされてください。
☞原因が特定できていない病気の場合、その治療法を巡っては「まったく矛盾」するような医学データや「相反する意見」が存在します。また病気は患者さん個々人の経験として、奇跡に近い事柄が起こりえることも事実として存在します。このブログの目指したいことは、奇跡を述べることではなく、一般的傾向がどこにあるか、ということを探しています。
☞原因不明の思春期特発性側弯症、「子どもの病気」に民間療法者が関与することは「危険」、治療はチームで対応する医療機関で実施されるべき。整体は自分で状況判断できる大人をビジネス対象とすることで良いのではありませんか?


 august03




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