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側弯症(側わん症/側湾症/そくわん)治療に関する資料と情報を発信するためのブログです

脚長差測定を巡る議論 (機能性側弯症例とその治療も含めて)

2017-11-20 17:27:48 | 脚長差と側弯症
初回記載:2017年11月20日
訂正:2017年11月21日ポーランド Raczkowskiの表 mm→cmに訂正


脚長差測定は正確なのか? という議論は1990年代から2000年初頭まで続いていたようです。一方、実施されていた治療の様子やどれくらいの人が(程度の差はありますが)脚長差を有しているのかに関する文献を提示してみました。

ご注意いただきたいのは、ここに提示される数値は、「或る文献」に記載されていた数値であって、これが疫学的に正解であるかどうかは 2017年の今においても誰も持っていないのでは? という点です。

また、これらの文献(要点だけをaugust03の視点で並べただけですが)を読まれる際には、下記の点を頭の片隅に
おいていただけると、この脚長差と側弯症という切り口での「課題」「未解決な点」がより理解しやすいと思います。

1. 大前提は、「特発性側弯症」はいまだに原因不明の病気であること。ゆえに、その原因を巡っては、様々な立場の
 方々が、過去からそして現在も研究・調査を続けているという現実。
 この「原因と解決」を巡っては、民間療法者もインターネット上で「持論」を述べているわけですが、それらは
 時には、ある意味見事なまでに論理的に展開されていることから、素人の方、患者さん(特にそのご両親)には
 光明に見えることがある、という現実があります。(それは光明ではなく、「巧妙」なのですが)

2. 脚長差には、明らかに治療を要する疾患と、治療を不要とするタイプがある ?

3. 治療を不要とするタイプというのは、ある医師は不要と考え、ある医師は必要と考える、という意味での
 医学上の議論が存在する。ということです。

4. 必要なのか? 不要なのか? の議論は、その脚長差の長さ(2センチメートル程度)とその影響の度合いに対する
 医学的実績や過去からのデータ不足とか、測定方法に対する信頼性の低さとかが関係しているようです。

5. もし不要だとしたら、不要という根拠は何か?
(脚長差のない軽度側弯の大半が自然緩解することはデータが示しているが、脚長差のある場合も含むのか? )

6. 側弯症との関係でいえば、
  ・脚長差が原因で機能性側弯が生じることがある → ではこの脚長差による機能性側弯は治療が必要なのか?
   それとも不要なのか? 必要だとすれば、患者はどこに行けばいいのか?
  ・学校検診(スクリーニング)では、脚長差による機能性側弯はどの程度発見されているのか?
  ・軽度側弯(ここで言う側弯とは脊柱のねじれを伴う構築性側弯)の中には、脚長差が原因の患者はいないのか?
  ・そもそも、10°前後の脊柱のレントゲン撮影で、側屈が消えたとか、残存していることが診断できるのか?
   同様に15°前後では?
  ・そもそも、10°前後の脊柱のレントゲン撮影で、ねじれた脊柱のend vertebraとnatural vertebraとの区別が
   正確にできるのか? 同様に15°前後では?
  ・脚長差が原因で、骨盤傾斜(冠状面coronal)が生じるのか? もし骨盤傾斜が生じていたら、それは治療対象か?
  ・もし治療は不要としたら、その根拠は? (上記4,5とリンク)
  ・脚長差を原因としない骨盤傾斜はあるのか?


....と、このように書いてきますと、すでにかなり複雑な様相を呈しているようで、読み疲れたと感じる方もいるかも
しれませんね。 でも、これが 1 に記載したこと、つまり「原因不明」ということがもたらす混沌カオスなのだ、ということを感じてもらえれば良いと思います。




◇1982 J Bone Joint Surg Am. 1982 Jan;64(1):59-62.
     Scoliosis associated with limb-length inequality. 脚長差に伴う側弯症
     Papaioannou T, Stokes I, Kenwright J.

アブストラクト
幼少期から未治療のままの下肢長の差を有する33人の青年の身体状況のレコードを調査した。足底を上げる処置の前後に、脊柱の診断とレントゲン検査を実施した。 脊柱の変異も測定した。左右を均等にする処置後も、大半の患者で脊柱の外側曲げには依然として大きな非対称が残存していた。 脚長差が原因での腰椎側弯においては、足底を上げたことで、代謝によって曲がりは大きくなっていなかったが、コブ角の変異と脊柱の回旋は残存していた。非対称の原因あるいはその持続期間と脊柱変異の重篤度とには相関はなかった。脚長差が2.2cm以下の場合は、側弯も軽度であった。 背中の不定愁訴もレントゲン上での変性疾患を持つ患者はいなかった。

・通常、脚長差を原因とする側弯は「非構築性」と呼ばれ、カーブ進行はないと言われてきた。
・しかし 1964, Sceller医師は、同医師が診察した多くの患者でやがて腰痛を呈するようになったという経験からこの非構築性も、時間の経過とともに「構築性」に変異していくのではないか、という意見であった。
・これまでの脚長差による非構築性側弯の研究は、数値的なことばかりで、なぜこの脚長差の中和が脊椎で起こるのかについての理由は不明であった。
・この脚長差への対処が必要なのか、不要なのか、外科的手術によるか、あるいは非手術でいくのか、どういうタイミングでやるのか、ということを知ることは重要であると考えた。
・幼少期から治療せずに脚長差が残存する青年23人において、脚長差と側弯に相関関係があるのかどうかを調査した。 (ポリオや神経疾患を有する場合は、調査対象には入れなかった)
・彼らの脚長差の量は、1.2cm~5.2cm
・脚長差が生じた原因は、 hemihypertropy半身肥大症 9人、生まれつき 4人、骨折 3人、hemiatrophy片側萎縮 2人、関節の感染、先天性股関節脱臼などなど。
・調査時の年齢は 平均28歳 (17~39歳)
結果
・レントゲン撮影より、カーブの凸側は、全員短い足のほうにあった。
・カーブの大きさは、人により様々であった。
・側弯とsacral 仙骨の傾きには相関関係がみられた
・脚長差の長さ(1.5cm~5.1cm)とそれぞれのコブ角は、下記fig3のとおり




☞脚長差が大きくなると、コブ角も大きくなっていくのがこの表から示されています


・脊柱の軸回旋(ねじれ)についてもレントゲン撮影により検査したところ
 -脚長差を矯正する前は、全ての患者で脊柱のねじれが見られた
 -最大のねじれは、下位腰椎であった (6人は0~5°、6人は6~10°、1人が17°)
 -矯正前のねじれの平均は、4.39°±3.66°
・足底への矯正措置により側弯カーブが減少する効果が良好であったのは、脚長差が 2.2cm以内の患者であった
・足底への矯正措置により側弯カーブは比較的に減少するが、完全にゼロにはならなかった。遺残はあるが、目立ったものではなかった。
・脊柱のねじれに関しても、減少はするが、何人かには残存していた。
・もし大人になってから、この脚長差を手術により矯正する必要が発生した際には、手術に先立って足底装具を試してみて、それから手術をする、ということも検討してよいのではないか。




◇1984年 Allyn L. 米国
      Leg length discrepancy assessment: accuracy and precision in Five clinical
     Methods of Evaluation
     THE JOURNAOLF ORTHOPAEDAINCD SPORTSP HYSICATLH ERAPY
・脚長差の原因には2種類あり、ひとつは先天的なもの、もうひとつは機能的要因によるもの
・いずれにしても、そこから生じて身体に与えるメカニカルな影響は同じといえる
・脚長差を有する大人は、人口の60~70%という報告(Stoddard : Manual of Orthopathic Technique, 1959)もある。
・脚長差がどの程度であれば、どのような影響を体に及ぼすのか、治療を要するか、あるいは不要かにつては、諸説ある。

測定する方法も幾つかあるようですが、どれがもっとも正確な測定方法であるかということは、この時代にはまだ統一されていないようです。
☞この文献では、人口に占める脚長差を有する率に注目しました。しかし、引用された文献は「整形教科書」のようで、
 本当に根拠のある数値であったかどうかの確認はとれませんでした。



◇1990年 Grill F, 「Pelvic tilt and leg length discrepancy」Orthopade. 1990 Sep;19(5):244-62.
           脚長差と骨盤傾斜

・アブストラクトのみより
・1969~1989の間で治療した345人の脚長差を原因とする骨盤傾斜を有する患者を分析した
・146人には短縮術 199人には延長術 65%はexcellent, 23%はgood 12%はworse
・2~3cmは保存療法 shoe lift を用いる
・3~5cmはepiphysiodesis 片側骨端固定術または短縮術
・5~15cmは延長術

☞345-146-199=0 つまり、この345人は 3cm以上の患者ということになり、側弯症治療で病院を訪れたのではなく、手術によらなければ治療できない脚長差の症例報告ということになります。
この1990年時点では、3cm以上は大腿骨ないしは脛骨を短縮することで左右の脚の長さを調整していた、ということ
☞コブ角の記述はアブストラクトにはないので、脚長差とコブ角の関係はわかりませんが、骨盤傾斜がなんらかの問題視されていたことは推察できます。



◇2001年 K.F.Zabjek カナダ
     Acute postural adaptations induced by a shoe lift in idiopathic scoliosis patients .
     Eur Spine J (2001) 10 :107–113
     特発性脊柱側弯症患者における足高装具を用いた直後に生じる姿勢の変化

・この研究は、特発性側弯症患者に足高装具による脊柱と三次元姿勢(矯正)への適応についてである。
・対象は1995~1999年までの間に当病院に来た思春期特発性側弯症の患者46人 
 平均年齢 12±2歳 を評価した。
・用いた付高の高さは、5mm (S-5と表記する)を12人に。 10mm(S-10)を20人に。15mm(s-15)を14人に。
・着用前のコブ角平均 46人全員 腰椎及び胸腰椎 22° (6~40°)
・上記着用した当日での測定 (15人のみ測定) コブ角の減少 平均7°(1~14°) ......32%の減少
 (測定した中の5人は、コブ角が5°以下にまで減少したものもいた)
・コブ角の他にも様々な部位での測定を実施。着用前と後では、それらの測定値が変化した。
 例 肩傾き:矯正前 0.4°±2° (-3°~4°) 矯正後 0.8°±0.6°(-1°~2°)
・脚長差により、脊柱変化がなぜ生じるかの原理は明確ではないが、仙骨の傾きが、様々な筋肉の機能に変化を与え、それが椎体に対する力学的な荷重伝達に影響し、脊柱のねじれに影響を与えていることが想定される。
・この仙骨の傾きを補正し、水平にするという考え方は、側弯の矯正にも利用できるかもしれない。
・文献によれば、この手法は、「機能性側弯(真の側弯ではない)の矯正」には有効であるが、「(真の側弯である)構築性側弯」には効果はない。ただし、機能性側弯が構築性側弯に変化するという議論は存在する。
・この足高装具を用いることで、側弯カーブを消滅させることはできないが、ブレース(装具)療法や手術に入る前の補助的役割として、仙骨を水平化させるという効果はあるかもしれない。
・我々は、この46人中 23人には、足高装具を補てんとして使用しながら、ブレース(装具)療法を実施した。
・足高装具の効果、影響はさらに研究されても良いと考える。

思春期特発性側弯症の患者に足高装具を用いることで、身体各部位での角度、長さ等が変化することを確認した調査。
 側弯カーブそれ自体を大きく治療する効果は期待できないが、治療のサポートとして利用できるのではないか? という
 提案がなされている。




◇2002年イタリア D'Amico M, 「Scoliosis and leg asymmetries: a reliable approach to assess
         wedge solutions efficacy.」Stud Health Technol Inform. 2002;88:

アブストラクトのみより
Legs asymmetry is often recognized in scoliotic patients, but still controversial is the use of underfoot wedges in order to compensate pelvis tilt. This could be due to the great uncertainty and intrinsic error level of the traditional clinical and visual measurements methods. pointing out the significant contribution of the 3D opto-electronic measurement approach

側弯症患者にはしばしば脚長差のあることを経験している。しかし、依然としてこの脚長差を原因とする骨盤傾斜の矯正にshoe liftを用いるかどうかについては議論が続いている。理由は、現状での診断技術にエラーが存在する為である。我々はこの技術的課題に対して、3D opto-electronic measurement approach を用いた。

2000年代に入るまで、ずっと検査・診断技術の面で課題があったために、側弯症患者における脚長差と骨盤傾斜の関係については未解決事項として残っていたことがわかります。と、同時に、ここで新しい診断装置が登場してきたこともわかります。
この3D opto-electronic measurement でグーグル検索しましたところ、2016年の文献が見つかりました。その内容は後半でご紹介します。




◇2003年  下肢延長症例における脊柱側弯の検討 
      南 周策先生 鹿児島県立整肢園  整形外科と災害外科 2003. 52:(2)

・(原疾患としての)下肢短縮患者に対する大腿骨及び下腿骨の仮骨延長を実施した男子14例、女子11例
・調査時平均年齢 17歳
・下肢延長後の平均フォロー期間3.7年
・下肢短縮の原因疾患は、先天性股関節脱臼治療後の遺残変形 8例 ペルテス病治療後の遺残 8例 
 外傷 5例、化膿性股関節炎治療後の遺残変形 4例
・術前の下肢長の差は、大腿骨頭高位で平均 33.2mm 腸骨高位で22.1mm
・側弯の発現には、骨盤の側方傾斜、すなわち腸骨高位での下肢長差が大きく関与しているものと考え、
 腸骨高位での下肢長差と側弯との関連について検討した。
・下肢長差は、24例が大腿骨仮骨延長、1例が下腿骨延長によりほぼ等長された。

結果
・術前コブ角 5~9° が7例、 10~19° が13例、 20~27° が4例、 34°が1例 
 (10°以上が計18例 72%)
・腸骨高位での下肢長差とコブ角の間には相関が強かった
・術前後のレントゲン写真のあった 13例の変化をみると、平均コブ角は延長手術前 18.7°から手術後
 7.6°に減少
・文献Millisによれば、陳旧例では構築性側弯に移行する症例あることを示唆している。
 自験例の18例中7例39%は、下肢等延長後も側弯は残存しており、構築性側弯と考えられた。

機能性側弯から構築性側弯に変化したのか、あるいは、もともと構築性側弯(病気としての真の側弯)を
 有していた患者さんなのかの判断はできませんが、上記に掲げた医学文献で記述されている機能性が構築性に変化した
 のではないか? という、さらに調査が必要な事柄が実際に起こりえることがこの報告からわかります。





◇2005年 Terry MA, 「Measurement variance in limb length discrepancy: clinical and radiographic assessment
     of interobserver and intraobserver variability.」J Pediatr Orthop. 2005 Mar-Apr;25(2)

☞ここでは、別の手法 Slit scanogram measurementという方法が紹介されていました。




◇2005年 Gary A Knutson  Anatomic and functional leg-length inequality
     : a review and recommendation for clinical decision-making. Part I
 Chiropr Osteopat. 2005; 13: 12.

・機能性による「short leg 脚長差」あるいは非荷重下の脚長アライメントの非対称性について考察する
・1970年から2005年までの医学文献のデータベース検索を実施した。検索用語は leg-length inequlity
・これらの医学論文から得られたこととして、非荷重下の脚長アライメントの非対称性は、解剖学的脚長差とは異なるものであることが示唆されている。この非荷重下の脚長アライメントの非対称性は、おそらくsuprapelvic muscle骨盤筋の高張性に起因していると思われた。
・非荷重下の脚長アライメントの非対称性の場合も、解剖学的脚長差の場合も、人の立位での姿勢に影響を与える。
・機能性からの脚長アライメントの非対称性は、解剖学的脚長差の治療前に解決されておくべきである。

・前回の調査で、正確なレントゲン撮影により解剖学的脚長差は 90% の人にあることが判明した。その平均は 5.2mm(±4.1mm) であった。
・解剖学的脚長差は20mm以上にならないと、臨床上の問題はない。
・機能性からの脚長差(非荷重下での脚長差)は、患者の背中を床にして(あるいはうつぶせに)寝かせて測定すると見ることができる。カイロプラクテックではこの方法がよくとられているが、この方法が本当に脚長差の存在を示すものであるかは、吟味する必要がある。

・解剖学的脚長差は、様々な原因により発生する。例えば、骨折、病気、人工股関節置換術など。
あるいは、長時間にわたり荷重を体に与えていると、 lumbopelvic structure 腰部骨格構造が Heuter volkmanns' law により軟部組織の変化が生じることがある。このような代謝は人の身体において自然なことである。
・ある研究によれば、骨未成熟の年代に 3cm 以上の脚長差があると、それによって生じた代謝性の脊柱や骨盤の変形は、骨成熟終了後も継続する、という報告もある。




左図は、骨盤が傾いた状態   これを右図のように足高装具で補正する原理


同文献より 脚長差の発生人口比






◇2006年 斎藤元先生(昭和大学藤が丘病院)
     森下益多朗(麻生病院) 「軽度特発性側弯症に対する足底装具を用いた付高療法の検討」
日本側わん症学会演題抄録集より

・軽度特発性側弯症に対する保存療法 - 足底装具
・1年以上経過した17例
・初診時年齢 平均12.9歳
・フォローアップ期間 平均3年3か月
・胸椎カーブ9例、胸腰椎カーブ6例、腰椎カーブ2例
・付高用の足底装具を作成し着用を指導
・付高の高さは3cm未満 平均1.6cm

結果
・着用前の上位彎曲コブ角平均 20.4°、下位彎曲平均21.6°
・着用後          14.1°       11.7°
・最終観察時        19.2°       20.2°
・17例の3年フォロー中に装具を必要となった症例は ひとりだけ
考察/結語 付高により既存の側弯に拮抗する代謝性彎曲をつくり側弯の矯正を目的として付高療法を施行。
今回の検討により彎曲の進行を抑えることが確認できた。自然経過との比較が困難なため、この方法の絶対的な効果とは必ずしも言えないが、比較的患者への負担も少なく、簡便であるため彎曲の flexibility のある軽度側弯症には試みて良い方法と考えられた。

平均値ですが、13歳から16歳まで初診時のコブ角が維持できた、ということです
☞先生自身が述べておられるように、軽度側弯は自然緩解する率が高いので、この足底装具が効果を持ったのか、やはり自然緩解であったのかは、この結果からだけでは判断はできない、と考察されています。
☞17例は調査数としては小さなものですので、自然緩解であった可能性も高いのですが、
例えば、次のように考えることもできると思います。

 ・仮に軽度側弯の自然緩解率を80%とすれば、16x0.8=13人は自然緩解 残り3人は足底装具の効果が
  ありえたと考えることもできる。
 ・この17人の足底装具での治療中に 1名が 側弯カーブが進行して、本当の装具療法に入っている
  のですが、この人は、継続してフォローしていただいていたわけですから、装具療法に入った
  時点でのコブ角も小さなうちに発見してもらえた。ということが想定されるのでは?
  早期発見が装具(ブレース)療法の治療効果につながるわけですから、軽度側弯のときから、継続して
  定期検査を受けることの意義の大きいことが、こういう面からもわかります。





◇2009年米国 Robert Coperstein, The relationship between pelvic torsion and anatomical leg length
inequality : a review of the literarature.
Journal of Chiropractic Medicine (2009) 8, 107–118

1984年の文献「Leg length discrepancy assessment」においても、この1980年代ではまだ脚長差を正確に測定する
 方法が確立されていなかったようです。と書きましたが、この2009年の文献では、多種多様な測定方法が存在していること
 また、測定方法や測定結果が統一されていない・報告書の記載が不明確で検証できない・用語の定義があいまい等々の
 問題点(課題)が指摘されていました。 この原因のひとつには、この分野に関わる医療関係者が、整形外科系(これも脊椎
 分野、リハビリ分野その他があるはず)、理学療法系、カイロプラクテック系などの多種多様な先生がたが開発した測定方法
 があり、それが統一されずに使用され、発表されていることにありそうです。
 ただ、1980年代、1990年代をへて、2000年代に入りますと、過去の研究の積み重ねから、脚長差と骨盤や脊柱との関連性が
 まだ研究途中ということも含めてですが、次第に解き明かされてきているのはわかります。 
 逆を言えばまだまだわからないことがたくさんある、ということになりますが、これはそもそも特発性側弯症自体の原因が
 いまだに不明ということを改めて考えさせられることになります。

 この分野の文献を読んでいて、感じるのは、側弯症の治療は「曲がっている脊柱を矯正して固定する」だけではなく、
 軽度側弯のときから、その人の身体のアライメント (脚長差の有無も含めて)を把握して、この時点から対処できること
 さらには、手術によって再現するアライメントを「その固定する部分だけを考える」のではなく、頭の先から、足先までの
 全体のアライメントの再現、という次元で、外科手術も、また足高補正なども含めたリハビリテーションが総合的に
 検討される必要があるのだろう。ということでした。





2010年ポーランド Raczkowski 「Functional scoliosis caused by leg length discrepancy」
               「脚長差が原因の機能性側弯症」  Arch Med Sci. 2010 Jun 30;6(3):393-8

・1998年~2006年の間に治療した 369人(女子209人、男子160) (年齢5才から17才)の報告
・全員、脚長差を原因とした機能性側弯症の患者
・脚長差は、骨盤傾斜を引き起こし、腰椎の機能性側弯に繋がる。また見た目の姿勢を悪くし、歩行もいびつさを持つことになる。また腰痛や椎間板症の要因になりえる。
・369人の測定結果は次のとおり

   脚長差(cm)   人数   %
    0.5     27     7.3
    1.0     329    89.1
    1.5      9     2.4
    2.0      4    1.2

・316人(83.7%)は、治療開始後2週間ほどから側弯カーブに効果を持ち始めたのが観察された。53人(14.7%)は時間はかかったが、同様に側弯カーブが緩解へと向かった。
・治療は shoe liftによる。 完全に脚長差がなくなるまでの期間は、3か月から最長23カ月であった。(Figure4)




結論
・脚長差を矯正することで機能性側弯を治療できた。
・検査は、(荷重をかけた)立位で行うこと。

-脚長差は、通常はそれほど大きいものではなく、1cm 程度
-人口の3~15%に発生すると言われいるが、その原因は不明
 ☞この根拠資料は示されていませんでした。
-1992~2002の間に、病院スタッフが幼稚園でのスクリーニングを実施し、10%に脚長差があることを発見した。
-わずかばかりの脚長差には、こども自身も大人も気づくことがなく、歩行その他で問題が生じることもない
-しかし、このわずかな脚長差は骨盤の傾斜の原因となり、やがて側弯カーブへとつながる
-脚長差を完全に治療するには、十分な観察、治療計画、適切な治療戦略を必要とする。(それほど簡単ではない)
-特に重要なことは、正確な脚長差の長さの計測と患者の年齢を踏まえた、治療計画である
-ここには、患者の心理的影響、インパクトも考慮する必要がある
-脚長差が2cm以下のときは、それほど難しいものではなく、差に応じた長さの補てんを行えばよい
-よく用いられる補てんの高さは、0.5cm~1.5cmである
-1.5cm~2.0cmの場合は、靴のインソールではなく、靴のヒールで調整するタイプのほうが、患者さんには心地よい
-脚長差の治療には、こどもの成長期が影響する。脚長差1cmの矯正には一年間に5~6cmの身長の成長が必要である。
-これが解決すれば、機能性側弯も消える。


引用:同文献内より 左写真:矯正前(脚長差による腰椎側弯   右写真:矯正後


引用:同文献内より 脚長差に対する治療方針 (0から2cmまでが 足高装具による矯正対象)


☞この文献では、脚長差が2cm以上は「手術」をする、という方針になっています。
☞この文献では、コブ角については、データが示されていませんでした





◇2016年イタリア D'Amico M 「Normative 3D opto-electronic stereo-photogrammetric posture and
         spine morphology data in young healthy adult population.」PLoS One. 2017 Jun 22

・2002年の文献で紹介されていた3D opto-electronic stereo-photogrammetric を用いた検証
・124人の健常者(女性57人 19才~34才,男子67人 20才~35才)を測定 
・124人の脚長差の平均は 9.37±3.31mm (最小6.0mm ~ 最大23.0mm)
・ここで検知された脚長差の要因は、
 ①測定時の被験者のバランス不良 ②立位での足にかける荷重が偏っていた ③正面像における脊柱の曲がり
 ④骨盤の傾斜 が想定される。

・このことから、さらにこの中から100人を選択して、脚長差を補正する調整板を追加して検査したところ、骨盤の傾きなどが
矯正され、立位での姿勢において82人が改善した。

☞この文献では、コブ角については、データが示されていませんでした
☞脚長差測定が不正確な理由として、検査機器の測定誤差の面と、測定時の患者さんの「立ち方」にも課題があることがこの文献から学ぶことができました。 そして、解剖学な要素 (脊柱の曲がり、骨盤傾斜)のあることも。
☞ただ、こうなりますと、原因と結果が、コインの裏表の関係ということになりますので、やはり、全てが明確になったわけではありません。



(comment by august03)
このブログ step by stepの大きな目的のひとつは「民間療法者」が、思春期特発性側弯症の患者(こども)さんから手を引かない為、子供たちが (そしてご両親が) 彼らのビジネスの犠牲になってしまう、という警鐘です。

1980年代から現在にいたるまでの脚長差と側弯を巡る、ある意味、まだまだ研究途上という状況が垣間見えたのではないでしょうか。 世界中の専門の大学、病院、研究所が研究、調査、臨床試験を繰り返して、少しづつですが、前進してきているわけです。でも、まだ未解明の部分もあります。その未解明につけこんで、なぜに「(患者に責任を持てない)民間療法者」が子どもたちの治療に口をはさみ、手をだすのでしょう。

近頃では、国家資格を有する人たちも、某整体のビジネスを踏まえて、R〇〇〇療法、体操、さらには装具の領域にも踏み出して、「側弯症を治した」「整形外科医から頼まれた患者を治した」と宣伝しているのを見るたびに、この国はいったいどうなっているのか? と不思議でなりません。 

こういう状況を修正できるのは、「患者さん」自身であり、そして「ご両親」です。どうか、そのことをご記憶下さい。



augsut03


☞august03は、メディカルドクターではありません。治療、治療方針等に関しまして、必ず主治医の先生とご相談してください。 医学文献の拙訳を提示しておりますが、詳細においてはミスが存在することも否定できません。もしこれらの内容で気になったことを主治医の先生に話された場合、先生からミスを指摘される可能性があることを前提として、先生とお話しされてください。
☞原因が特定できていない病気の場合、その治療法を巡っては「まったく矛盾」するような医学データや「相反する意見」が存在します。また病気は患者さん個々人の経験として、奇跡に近い事柄が起こりえることも事実として存在します。このブログの目指したいことは、奇跡を述べることではなく、一般的傾向がどこにあるか、ということを探しています。
☞原因不明の思春期特発性側弯症、「子どもの病気」に民間療法者が関与することは「危険」、治療はチームで対応する医療機関で実施されるべき。整体は自分で状況判断できる大人をビジネス対象とすることで良いのではありませんか?

 


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