これぞオーシャムの秘技ツイン・グリーンドア。
一度扉を開ければ勝利しない限り、二度と出ることは叶わぬ禁断の技。
彼女が「夢魔世界の掟破り」と糾弾された最大の理由がこれであった。
「いらっしゃいませ、お爺ちゃん、お嬢様、お姫様」オーシャムがメイド喫茶風に出迎える。
「今回は歓迎してくるのか? 女海賊の風体に似合わずサービスがよいの」
「もちろん大歓迎ですわ。『天罰を与えるもの』オーシャムと申します。これはコスプレでございます。ご友人を取り戻したければ、お爺ちゃん、お嬢ちゃん、お姫様の中から代表者を選んでくださいませ。もしも出てこられれば、負けを認めてなんなりとご希望通りにいたしますわ」
「よいであろう。夢魔の支配する夢で、そちらの土俵に乗ってみるのも一興」
「おじいちゃん、本当に大丈夫?」
「大丈夫も何も、ここまで来ておいてワンダーランドに行かぬなどあり得ない。お前が扉に入るがよい。儂とこのお姫様は高みの見物と行こう」
眠眠は、ゆっくりと扉を開けて暗闇の中に入っていった。
人は海の「生命の源」と呼ぶ。だが、子宮こそが真の「生命の源」。
そこは生命が宿り、500万年前とも400万年前とも言われる人類の誕生の歴史を繰り返す魔法の場所。
一歩踏み出した瞬間、眠眠は羊水に浸かっていた。それは、けっして不愉快ではなく、身を深く沈め眠りにつきたいと思わせるような感覚だった。
一歩進む度に、陶酔感が脳天まで昇ってきた。
恐怖心がなくなり、好奇心が満ちていく。
水は冷たいようであたたかく、澄んでいるようで琥珀色にも見えた。
「この感覚におぼれてはダメよ。帰れなくなる」
後ろからの声に気づくと、写真でしか見たことがない母薛妃の姿があった。
「おかあさん・・・・・・」
「眠眠、大きくなったわね」
「もう会えないと思っていた」
「いままでも会えたし、これからも会おうと思えばいつでも会うことはできる。あなたは夢魔の眷属だから」
「おじいちゃん、眠眠にはくわしく教えてくれない」
「黒龍様の妻、樹里のことは誰もよく知らない。ただ教えてあげられるのは、私がここでは敵だということ。オーシャムからは、やさしい母親を演じて夢に閉じ込めるよう命を受けた。でも、あなたは私を倒して出ていかなきゃ」
「やだ、やっとお母さんに会えたのに」
「時間がないの。羊水の湖にいればいるだけ、あなたは赤ん坊に戻っていく」しかたがないという風に続けた。「もうひとつ、あなたが闘いたくなるように教えてあげる。お父さんが亡くなったのは私のせい」
「何を言っているの!?」
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