「23年前の真相を教えて上げる。本当の私は、青龍様の結界が完璧なのを知った“三合会”によって送り込まれた間諜だったの。幹部たちは、黒龍様から表に出せない数々の秘密を青龍様が引き継いでいるのではないかと疑心暗鬼になった。内部から青龍様の御屋敷に隙を作るべく、白龍の妻になるようすべてが仕組まれた」薛妃は言葉を切った。
「誤算は、私が白龍を愛してしまったこと。白龍は私が出会った中でも最も完璧な人間だった。頭がよくて、美男子で、武道の達人。まるで非情な部分は黒龍様と青龍様に吸い取られてしまったかのように、やさしい性格をしていた。普段は一日中デイトレーディングに精を出していた。一言で言って、あの人は天才だった。どんな連戦連勝トレーダーも、たまに損を出すことがある。だが白龍は、マーケットのささいな徴候から暴落の危険を察知するといつでもうまく売り抜けた。だけど青龍様の財産を、易々と数十倍、数百倍にしていった彼はコワくなったの。このまま自分の一挙手一投足が世界中の相場を動かすようになるのではないかと。実際、白龍が動いていると知られると、勝負を挑む者などおらず他のトレーダーたちが追従するようになった。そんなことが続くと仮眠を取るための特製の強い睡眠薬も、だんだん効かなくなっていった。すでにオーシャムに操られていた私は白龍をノイローゼにすることにした。彼の不安につけ込んで、いつか悪魔が目の前に現れてマーケットクラッシュの引き金を引かせるという暗示を与えた。選択の余地はなかった。命令をきかなければ、一族郎党皆殺しにすると組織からは言われていたから。しかし、オーシャムは『天罰を与えるもの』だった。愛する夫に妄想を与える妻が天罰を受けないはずがない。組織が送り込んだテレパスによって錯乱状態に陥った白龍は、家族を悪魔と思い込み、まずお前がお腹の中にいた私が殺された。さらに荒れ狂っていた彼は、青龍様の手によって葬られた。幽体離脱中にお前が無事生まれたことを見た私は、その後も霊体となってオーシャムに忠誠を誓うことにした。お前がいつか一族の呪いを晴らすというアポロノミカンの予言を知っていたから」
「それなら、おかあさん、眠眠をたちゅけて」普段と違う自分の声に気づくと、数才も若返っていた。
「助けてはあげる。でも、それはお前と闘うことでしかできないの。その様子では、私と闘えないほど若返ってしまうのも時間の問題ね」
「いったい、どういうこと?」
薛妃が羊水から空中に舞い上がると、口の端がつり上った。
そこにいたのは先ほどまでとは別人の、妖刀を抱えた鬼妃の姿だった。
深紫色の艶やかな振り袖と裏腹に、その双眼は血走り爪は鋭く尖っている。
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