財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第12章−2 責任の神の娘(再編集版)

2021-05-14 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「第三の部屋へ移動しよう」アストロラーベが、土煙あふれる部屋に皆を誘う。
「誰が私の相手をしてくれるのだ?」
 ドルガが答える。「冥界最高のネクロマンサーで『あやつるもの』アストロラーベには、冥界の道化師で『悩ますもの』リギスとの魔術対決と行こう。準備はよいか?」
「待ちかねていたでありんす。冥界時代の力が使えぬマクミラより、アストロラーベは数倍歯ごたえある相手。リギス一世一代の歌声をお聞かせするでありんす」
 責任の神シュルドの娘リギスは、その竪琴の音色が神々や神獣さえ虜にしたオルフェウスの遠縁。オルフェウスには、アポロンの落とし子という噂があり、アストロラーベにとってもたやすい相手ではなかった。
 全員が部屋に入ると、目を開けていられないほどの土煙が荒れ狂っていた。「見届け人がこれでは困ろう」アストロラーベが右の掌を向けると、彼らの回りだけ土煙がおさまりカプセルにおおわれたようになる。
「よいのでありんすか? エネルギーをずっと使うことになるでありんすえ」リギスが皮肉に言う。
「なんの。残留思念を使えば、一瞬で事足りる」
「さすが、女にもてるはずでありんす。だが、忘れてはいないでありんすな? この闘いの貢ぎ物は、お主の妹ミスティラ」
「念を押すまでもない」

 マクミラは思った。
 兄アストロラーベと闘おうとは、命知らずのおろか者。
 アストロラーベの必殺技はただ一つ、半透明の槍。本当の強者は一つの技しか使わない、使えない、使う必要がない。プルートゥから、かぶると透明になる兜を直々に賜ったアストロラーベは、冥主の許可を得て兜をつぶして半透明の槍を作った。
 槍は、二つの点でおそれられていた。一つは、槍を動かすとアストロラーベの姿が透明になるだけでなく、本当にアストロラーベの気配が消えてしまう。彼自身が語らないため理由はわからないが、槍の力で短時間なら異次元に移動できるではないかと噂されていた。
 第二に、半透明の槍には不思議な力があり、突き刺されると冥界の四つの川の水が注ぎ込む。それぞれ異なった効果を持っており、ピュリプレゲドンの水が入ると相手の身体が燃え上がり、ステュクスの水が味方に入ると攻撃に対し恐れ知らずになり、アケロンの水が入ると短時間で相手の命が失われ、レテの水が入ると相手の記憶が失われた。アストロラーベの持つ半透明の槍は、「鬼に金棒」どころか一つで「弁慶の七つ道具」と言えた。


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