マクミラが、一瞬沈黙した後、言った。「今、わかった。ずっと考えていた問いの答えが。プルートゥは、素晴らしいことをしてくれたのだ。わたしを不死者にしなかった。偽りの人生を不本意に生きるよりも、偽りのない愛に死にたい。もうゲームのコマとして生きるのはやめだ。わたしは、これから生きたいように生き、死にたいように死ぬ」
マクミラが宣言した。「ドルガ、勝負だ!」
「冥界時代の万分の一のすごみもないお前が勝てると思っているのか? ピュリプレゲドン・フィップ程度の技では、蚊に刺されたほどにも感じぬ」
「リギスのまねごと、ピュリプレゲドン・フィップのようなねむたい技を使う気はない。数段進化したマキシマム・ピュリプレゲドンでお相手しよう」
「なんだ、それは?」
「自らを炎の化身として相手を焼き殺す技だ」
「ムダだ」
「なに?」
「ムダと言っているのだ。火の川ピュリプレゲドンに関連したいかなる技でも、我は殺すことはできないのだ。さっきは言わなかったが、我が父トッドは我をピュリプレゲドンの業火で焼き殺した。我ら死の神の一族は一度殺されれば、同じ方法で二度殺すことはできない。そして殺される度に新しい能力をもって、より強い姿で再生する」
ドルガは、自らが死の神トッドに殺された時のことを思い出していた。かつて彼女は、気高い雰囲気を持った長い黒髪が自慢の美しい娘だった。父の部下で当時は、まだハンサムな顔を持っていたタナトスや召使いたちに囲まれて、冥界のプルートゥ宮殿で何不自由ない毎日を送っていた。きびしいがドルガに愛情をそそいでくれる父が失った母からの愛を求めて苦しむ姿を見ることが、彼女にはつらかった。死こそ安らぎ、すべての苦しみからの解放と教わって来たドルガは、トッドに死を与えてやろうと思った。
プルートゥの閻魔帳を見る権限を付与された数少ない一人であるトッドは、家でも閻魔帳と首っ引きで仕事をしていることが多かった。
ある日、音もなく後ろに回ったドルガは、いきなりトッドの後頭部から背中にかけて真っ二つに裂けよと猛禽類のするどい爪を引き下ろした。高速で走っていた列車が、急ブレーキをかけたようなすさまじい音が響き渡った。ドルガのするどい爪も冥界屈指の強者トッドの背中には、一筋の傷を残したにすぎなかった。
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