スカルラーベが身構えた。
まるで目の前の空気をつかもうとするかのように、交差して突きだしたスカルラーベの両手がブルブルと震えている。だんだんと、その爪が青白い光を帯びてゆく。すると巨大な岩でもひっかくように後ろ側へ、その爪が今度はゆっくり左右に開きながら引っ張られていく。
ムッ、まずい。
アストロラーベは、呪文をつぶやくと立会人たちを守るための思念バリアを張った。彼らを囲む半透明の幕が、ギリギリのタイミングで現れた。
次の瞬間、スカルラーベが叫ぶと引っ張られていた腕の掌を返して目の前の空気を前方上空へ引き裂いた。
秘技スーパー・バックドラフト!
たちまち回りの空気が吸い込まれるようになくなって、ライムの姿が真空中に囚われたように見えた。次に、ライムを中心として強大なコロナが誕生した。
バックドラフトは、火事現場で見られる現象であり、ロン・ハワード監督のシカゴの消防士たちを描いた同名のハリウッド映画で有名になった。
酸素を消費しつくした密室空間に蔓延した可燃性ガスに、新鮮な空気が急に入って爆発的炎が引き起こされる現象である。通常の爆発でも千度を越えるが、スカルラーベの創り出す超バックドラフト空間では一万度を越える高熱を発して、中心にいたものは最悪の場合、異次元空間にまではじき飛ばされてしまう。
ドッカーン!
大音響の後、一面が炎に包まれた。精神世界と分かっていても、アストロラーベの思念バリアで守られていても、立会人たちも自らが照り焼きになりかねないほどの熱気を感じた。
まるで巨大新星がスーパーノヴァを起こしたようであった。しばらくは光の流れのせいで見にくかったが、だんだんと中心部に何かがいるのが見えて来た。
まるで閉じられた黄金の二枚の羽に包まれた、巨大な椋鳥のように見えた。椋鳥がゆっくり羽を開くと、蛇姫ライムの姿が中に現れた。
羽がやや黒ずんだ印象を受けるが、顔には傷一つ付いていない。
「秘技などとたいそうなことを言うので、今度こそ死ねるかもしれないかと思ったが・・・・・・しょせん、たわごとか」そこまで言うと、ライムが怒りの表情に変わった。「さあ、他の者どもはしばらく目を閉じておくがよい。スカルラーベ、覚悟はよいか。本当の秘技を見せてやろうではないか。トータリー・アンエクスペクテッド!」
ライムの顔が、瞬時にして青銅に変わりイノシシの牙を見せて、髪のすべてが蛇になり、口から長い舌が垂れ下がった。その姿を見たものは血も凍る恐怖に石に変わってしまい、一生を物言えぬ存在に変えてしまう・・・・・・はずだった。すでに美しい蛇姫の姿に戻ったライムが、唖然と立ちつくしていた。
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