「四番目の部屋の闘いの褒美は、我ら四人の自由であったな」
「その通りだ」
「我の不戦勝を認めるなら、ここで闘いをやめてもよい。悪い話ではあるまい。知っているぞ、666分間のタイムリミットも。今、闘いをやめれば時空変容ミラージュの儀式を解くにはちょうどよいではないか。堕天使ダニエルは、分裂寸前。マクミラは、命がけで最後の賭に出ようとしている。無敵の悪魔姫の伝説を知るものなら、二人に万に一つの勝ち目もないことを知っておろう」
「最初の三つの部屋の勝負は、こちらの勝利か引き分けになっている。あえてお前たちの自由を奪うために、危険をおかす必要性はたしかにもうない」
マクミラがおこりだす。「同情などまっぴらだ。正々堂々闘わせろ」
「聞き分けのない女だな。我は死の神の娘。死を軽々しく扱う奴には、一番腹が立つ。お前たちは、たった一度きりの命をどうしてもっと意味のあることに使おうとしない。まあいい・・・・・・愚か者とは、これ以上議論しても始まらぬ。もうすべてがどうでもよくなったのじゃ」
「どうでもよくなった?」
「スネール様は、アポロノミカンを見てもいまだにお前に未練タラタラ。お前はお前で、愛に生きるとか歯の浮くようなセリフをはく有様。誇り高き悪魔姫が相手をするには、ふさわしくない。それに、我はこの闘いの前からすでに死ぬことに決めていたのだ」
「あと8回殺されなければ、死ねないはずではなかったか?」
「我ら死の神一族は、自ら死を選んだ時にだけはよみがえらずに死ねるのだ」
「まったく面倒くさい一族だな。せっかく拾った命だ。以前のように、魔女四人組で自由にあばれまわったらどうだ」
「そうはいかぬ。精神世界に来た時、我が夏海の声でトミー坊主に言ったことを覚えていないか」
「たしか・・・・・・坊や、これは夢の中なのよ。すべて終われば、ベッドの中で目覚めることができるわ、とか」
「さすがは元冥界の神官。りっぱな記憶力だ」
「世辞を言っている時ではないだろう。だが、そのセリフがどうした」
「神には二言はない。たとえ墮天使に落ちても、まだ神のプライドを失っていはいない。たとえ小僧との約束でも、一度ちぎった約束は守られねばならぬ。そのために、自ら命を絶つことが必要なのだ。魔女に取り憑かれた人間は、魔女が離れる時にその人間は死ぬ運命にある。呪われた魔女は、地上のとどまるためにまた別の取り憑くべき人間を求めてさまよう。唯一、取り憑かれた人間に魔女が身体を返す手段がある。それが自ら望んで死神タナトスの死の鎌によって首を落とされることじゃ」
「よいのか、それで?」
「お前らしくもない。情けをかけるのか」
「情けなどと、そんなことではない。だが、お前ほど憎らしい相手には滅多に会えぬからな。あっさり死なせるのはもったいない」にやりと笑ったマクミラのするどい犬歯がのぞいた。
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