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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第三部闘龍孔明篇 第5章-8 利益と不利益の比較

2018-06-25 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 人は基本的に保守的な動物であり、何か特別な理由がない限り、重要な政策変更をしたいとは思わないものである。個人レベルで考えてみても、これまで長髪で特に問題がなかった人が、急にモヒカン刈りにしてきたら周りの人間は「いったい何があったのか?」といぶかしがることであろう。ましてや社会制度や経済システムの変更なら、具体的な問題が存在していたり、新たなメリットが明らかに見込まれたりしない限り、変えることのリスクを嫌って現状維持を望むのが人の常である。そのために、「変化」を提唱する肯定側はディベートでは不利となる。ディベートが肯定側のスピーチで始まり肯定側のスピーチで終わるフォーマットになっているのは、不利な肯定側を少しでも有利にするためである。つまり、最初に聞いたことの印象は強いという「初頭効果」(primacy effect)と、最後に聞いたことの印象は残りやすいという「終末効果」(recency effect)を享受する権利が肯定側に与えられているのである。
 その結果として、ディベートのフォーマットは、通常、否定側第2立論と否定側第1反駁が連続したスピーチとなっている。これを、通称「否定側の壁」(Negative block)と呼ぶ。「否定側の壁」で、どれだけダブりをなくして、最終的に強い議論の組み合わせを構築できるかが、否定側の勝利の鍵である。
 それに対し、「肯定側の勝利の鍵」は第1反駁(First Affirmative Rebuttal)である。肯定側は1つのスピーチで、否定側の2つの連続したスピーチに返答しなくてはならない。ディベートにおいて、肯定側第一反駁が最も重要なスピーチと言われる所以である。ディベートでは、各チームに10分の準備時間が与えられており、合計10分になるならば、どこでどのように使ってもかまわない。そのため、ほとんどの肯定側が第1反駁に準備時間の大半を使用する。
 ところがノースウエスタン大学のショーンは、第1反駁前にいっさい準備時間を使わない。いきなりスピーチを始め、いつでも完璧な返答をするために相手チーム驚愕の対象となってきた。それがどれだけ驚異的であるかは、準備運動無しにいきなり全力疾走する短距離走選手、目をつぶったまま100マイルの速球を投げるメジャーリーガーのようなものと言えば、分かっていただけるであろうか。最後に残った否定側第2反駁(Second Negative Rebuttal)と肯定側第2反駁(Second Affirmative Rebuttal)は、双方にとってのまとめであり、どの議論によってどのように自分たちが勝っているかを説明するスピーチとなる。
「いいえ、ナンシー。わかりません」
「正直でよろしい。私も、なぜショーンが準備時間無しで肯定側第1反駁ができるのか不思議でしょうがなかった。だから、本人に直接聞いてみたの」
「はあっ? そんな大事なことを、教えてくれたんですか?」
「あなたも彼がどれだけナイスガイか知っているでしょう。普通、勝利の秘訣(competitive edges)は隠したいものよ。でも、ショーンたちのレベルになると、いい意味で自信があるしノウハウを公にした上で正々堂々勝利したいと考える。話を戻すと、彼が第一反駁前に準備時間を使わない理由は、相手のスピーチをノートに取らないからよ」
「何ですって! 相手のスピーチをノートに取らないで、どうやって反論するんですか?」

          

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