「戦場では、油断は禁物だと習わなかったか?」
「それは、こちらのセリフ」
切り落とされた右手、自らの意思を持ったように動きだし、デビルカリバーをつかんで“ドラクール”の腹に深々と突き立てた。デビルカリバーにも同じような力があり、不死身の“ドラクール”が苦しそうに声をしぼりだす。
「降参して我が僕(しもべ)として、仕えていただけるなら命は助けてさしあげましょう」エリザードが、魔剣をギリギリ動かしながら言う。
「戦場では、油断は禁物だと言わなかったか?」
次の瞬間、“ドラクール”がするどい牙をエリザードの首筋に突き立てた。
アッ。
他人の血を吸うことはあっても、自らが吸われるとは想定していなかったエリザードが、一瞬、あっけに取られる。
ズッ、ズッ、ズッ・・・・・・
“ドラクール”が、エリザードの体液すべてを吸い尽くそうと不気味な音を立てた。ヴァンパイアに血を吸われると、恍惚感にとらわれ抵抗できなくなる。“ドラクール”に愛情を持つエリザードは、なおさらこのまま身をまかせていたくなる。
だが・・・・・・このまま、すんなり殺されるわけにはいかぬ。
ザワザワと音がして、エリザードの髪が逆立った。
その姿は、後に冥界で“ドラクール”が出会うサラマンダーの女王ローラに瓜二つ。人間界で愛情を否定したのとそっくりな相手と、冥界で契りを結ぶのが、いったい呪いか運命なのかは誰にもわからなかった。
だらりと垂れ下がっていたエリザートの左手が、最後の力を振り絞って“ドラクール”の心の臓を突き刺した。
それでも苦痛をこらえて、“ドラクール”はエリザードの体液を啜り続ける。
「我が命が失われるのも時間の問題」エリザードがつぶやく。「このまま死ぬのはかまわぬ。だが、“ドラクール様”、我が一族の呪い、これで晴れるとは思いますな。冥界には行かず、必ずや『虚無をかかえるもの』として魔界転生してあなた様の一族に仇なしてみましょうぞ」
次の瞬間、エリザードと“ドラクール”が同時に灰になった。
これが“ドラクール”が経験した、この世の地獄であった。
プルートゥの発した思念で、“ドラクール”は我に返った。
(アストロラーベ、今度こそ最後のゲームとなろう。ジェノサイダス、シュリリス、ビザード、トリックスターとの「絶対悪」を巡る闘いに勝ち目はあるか?)
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