深夜の聖ローレンス大学キャンパス。
もう六月も終わりに近いというのに、冷たい雨がしとしと降り続いていた。
ナオミとケネスのパトロールも、最後に講演会場のローデン・オーデトリアムのチェックで終わろうとしていた。
ナオミは、孔明との深夜パトロール中も心ここにあらずだった。
マウスピークスは精神状態が最悪で話を続けられなかった。
ふと、トーミの言葉を思い出した。
「かわいそうな娘だよ。お前は、いつか人間界に出ていく星の下に生まれついている。だけど、どこへ行ってもやっかいごとに引き寄せられていくんだ」
だけど、トーミはこうも言った。
「せめてお前がどこへいっても、教え導くものと助けてくれる仲間に恵まれるように魔法をかけておいてあげよう」
助けてくれる仲間・・・・・・
ナオミが考え事をしている間、実は孔明も不安を感じていた。
何か変だ。
暗い、暗すぎる。なぜ、今日の闇はこんなにも深い。
何百回と走っているはずの見慣れたキャンパスが、今夜はまるで別の風景に見える。
いつか、祖父から聞いた「人間も動物なのじゃ」という言葉を思い出す。
胸騒ぎがする時は、本当に危険を察知しておるのじゃ
だが、孔明は思う。
そんな時は家にこもってじっとしているのがいいのは俺だってわかってる。
避けられる危険ならいい。
わかっていながらその危険を避けられず、あえて出陣しなければいけない時はどうするんだ、じいちゃん。
愛車のジャガーを運転していた孔明が声をかけた。
「そんなに心配なのか? とうとう明日になっちまったな」
早番メンバーはもう自宅に帰っていて、キャンパスを一回りしたら二人も明日に備えて休むつもりだった。
「そうね・・・・・・ナンシーもずいぶん心配してるんだけど」
本当はもっとくわしく話したかったが、孔明がどの程度、知っているかわからなかったのでやめた。
「明日はどうなるかわからない。だけど今晩も要注意だぜ」
「こんな雨の夜に? 犯罪者もこんな夜は出没しないんじゃない」
「まともなところの残っている奴ならな。しかし物陰で雨に濡れながら何時間でも獲物を待つことを厭わない奴もいる。信じられないだろう、雨の夜の方が月夜より凶悪犯罪の発生率は高いんだ。とびっきりいかれた奴らは、こんな夜でさえ凶暴な衝動を抑えられない。あるいはこんな夜だからこそ血が騒ぐのかも知れない」
「逆ウエアウルフ現象ね」
「サイコパスははっきり言って狼男よりよほど質が悪い。月夜の晩だけじゃねえぞってのは日本じゃチンピラの常套句だ。狂気は月の満ち欠けによってもたらされるって発想は日本にはないが、この国に関しては正しいようだな」
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