カンザスの闘いから1年経った1992年初夏のある夜、聖ローレンス大学学生寮で一人ぼんやりとしていたナオミの部屋の電話が鳴った。午前1時ちょうどだった。受話器を取る前から、ナオミには父ケネス・アプリオールからの電話だという確信があった。
「ケネス!」
「まるで電話がかかってこないわけじゃないだろ。なんで俺からとわかったんだ。こんな夜中にすぐ受話器を取るなんて、いつも電話の前で待ってるのか?」
「そんな冗談より、何で連絡をくれなかったの!」
「1年に一度は会おうと言ったのを忘れたわけじゃない。ちょっと面倒な事情があってな・・・・・・やっと電話できた」
「事情って・・・・・・元気だったの? ずっと戦場にいたの?」
「最初の質問に対する答えは、イエス。二番目の質問に対する答えは、ノーだ。戦場にはいなかった。俺は、どうやらもうお払い箱らしい。湾岸戦争終結後は、行方不明になった奴らの消息探しの任務を与えられていたんだ」
「1年も連絡さえくれないなんてひどいじゃない」
「そうとんがるな。電話じゃ、機密事項を話せないのは知ってるだろ? 今日は、盗聴防止用の特別回線からかけてるから大丈夫だが。どうやらお前、とんでもないことに首をつっこんでるようだな」
「何のこと、言ってるの?」
「カンザスのアポロノミカンをめぐる闘い、聞いてるぞ。今日は、くわしい話を聞きたいと思ってな」
ナオミは、あの時の体験を誰にも話す気にはなれなかったし、返事の来ないケネスに一方通行のように送った手紙でも触れていなかった。ナオミは、できるだけあの時のことを思い出してケネスに説明した。
黙って聞いていたケネスが言った。
「マクミラって奴、気に入らないな。これだけの事件に関わって、おとがめなしとは納得できない。強大な権力ともつながってるはずだ・・・・・・それはそうと、お前の初陣としちゃ、まあまあだな。二人でゾンビー・ソルジャー13人を倒したとは、とりあえずほめておいてやるか」
「途中で分裂したから30人以上だよ!」
「だが、最後はアルゴス坊やの手を借りたんだろ?」
「そりゃ、そうだけど・・・・・・」
「そいつらの襲撃の目的は考えたか?」
「目的?」
「闘いを運まかせなんては、もってのほかだぞ。生き残るための条件その1。勝っても負けても、検証して学ぶべきは学んでおく。負けた方は、次は勝った方の何倍も用意周到になってくる」
お払い箱と冗談にまぎらわせているが、ケネスは格闘技でも銃器でも、戦略立案でも状況分析でも、シールズの中でベスト・オブ・ザ・ベスツの成績を残してきた。こういう電話を受けると、自分がまだアマチュアでケネスがプロフェッショナルだと悟った。同時に、久しぶりの電話なのにずいぶんきびしいことを言うと最初思ったが、本当はナオミを心配してくれているのだとわかった。
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