「彼女は教官じゃない。オブザーバーだ。いいか、戦場でのオン・ザ・ジョブは普通じゃ行われない。初めての戦闘から常に本番なんだ。戦場は本番を訓練にできるほどあまくない。死ねば一巻の終わりだ。通常のオン・ザ・ジョブ・トレーニングじゃ、成功しようが失敗しようが死ぬことはないだろ」
「じゃあ、戦場では何が成功と失敗の分かれ目になるの?」
「さすが俺の娘だ。なかなかいいことを聞くじゃないか。3つの要素が成功と失敗の分かれ目になる。実力、運、そして瞬時の判断だ。俺は、これまで実力があっても運がなくて死んだ奴も、実力がそこそこなのに運が強くて生き残った奴も見てきた。実力はともかくも、お前には運だけはあるようだな」
「カンザスの闘いでは、たしかに運があったと思う。でも、次は別物ってことね」
「そうだ。前回はお前に有利な雨中の闘いだったが、もし次が街中やジャングル、あるいは砂漠での闘いでも同じように戦える自信はあるか? ありとあらゆる可能性をシミュレーションしておけ。メンタル・トレーニングだけでもずいぶん違う。心の準備ってやつだ。それが瞬時の判断力につながる。ただし、正しい判断ってのはくせものでな、それが正しいかどうかは後になってみなければわからないことも多い。だが、迷いが禁物なのははっきりしてるし、結果オーライが通用するほど実戦はあまくない」
しばらく沈黙があってから、ナオミが訊ねた。「やっぱり、しばらく会えないの?」
「休みなしだったから、クリスマス休暇には会えるだろう」
「本当! どこで会えるの? ハワイで、それともカンザスに来てくれる?」
「ニューヨークは、どうだ? マリア(注、ケネスの母)も久しぶりにお前に会いたがってるし。マクミラは、ニューヨークが拠点のヌーヴェルヴァーグ財閥のお嬢様だ。相手の総本山を見ておくのもいいだろう。生き残るための条件その2、やられたらやり返せだ」
「楽しい情報収集になりそう。でも、ニューヨークって・・・・・・」
長年の経験で、ケネスが電話の向こうで何を考えているのがわかった。
「夏海か? 気にするな。あっちは死んでも俺に会いたくないだろうし、俺も今さら会っても何もない。また連絡する。元気でな!」
ケネスは一方的に電話を切ってしまった。
ナオミは、まだ気づいていなかった。ニューヨークでトラブルが彼女を待っていることに。そこで前回の闘いとは比較にならない恐怖を体験することに。
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