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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第三部闘龍孔明篇 第6章−7 夢魔樹里の決断

2018-09-10 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「ついにアポロノミカンの予言が当たったか。だが、予言は実現するかどうかでなく、いつ実現するのかだけが問題だった」
「父上様! 我の力が及ばず息子たちが・・・・・・」
「自らを責めるな。予言通り、お前の息子白い龍が生まれ、命は残酷な運命によって奪われた。だが、予言はまだ続く」
「今宵のことをなぜ事前に教えてくれなかったのですか? 知ってさえいれば備えられたかも……」
「無理を言うではない。事前に伝えれば、必ず予言を変えてしまう」
「なぜに、我ら一族にこのような運命が降りかかってくるのですか?」
「悲劇こそ、呪いを晴らすため必要と知っていたから知らせなかったのじゃ」黒龍は凄みのある笑いを浮かべた。「陽明学の伝習録にある『一掴一掌血、一棒一条痕なれ』を覚えておろう。一度掴めば血の手形が付くほど掴み、打ち込めば一生傷跡が残るほど打ち込め。苦しく悲しい体験は心に傷を生むが、生半可な苦しみや悲しみなど日が経てば薄れ忘れていってしまう。しかし、今日の悲劇はお前の心にぬぐい去れない傷を残すはず。だが、覚えておくがよい。我が一族にかかった呪いは、まだまだ序の口。青い龍が紅い龍を育てる刻。今後の運命こそが本番。その呪いは三重の呪いなのじゃ」
「三重の呪い! いったい?」
「今こそ、お前の母の真実を伝える時。樹里とは当て字で、真の名は“ジル。”夢魔サキュバスの女王だったのじゃ」
「夢魔の女王!?」
「こうして白昼夢で儂が会話できるのも、樹里がお前の潜在意識にメッセージを埋め込んでくれたおかげ。アポロノミカンを見て以来、儂は幻視世界に生きるようになった。海龍となり自由に泳ぎ回っては狙いをつけた敵を殺傷した。その龍の住む海は澄んだ青い海ではなく犠牲者の流すどす黒い血の海であった。その内、現実と夢の境界線が分からなくなった。楽しい夢見ならばさわやかな目覚め、悪夢でさえ『ああ、夢だった』と思うことで気分を前向きにできる。人は夢無しに生きられない。儂は、その夢を見る権利さえ奪われた。そんな時、神獣の獏に乗ったサキュバスの女王樹里は儂に興味を持った。全土に数億人の民おれども、儂ほど夢に苦しむ者はなかった。樹里は、獏に悪夢を食べさせては逢い引きをしてくれるようになった。血塗られた過去を持つ儂に、人を愛することなどあり得なかった。闇の中で生きてきた儂には樹里との日々だけが、目眩く想い出であった。ある時、樹里は子供が出来たと伝えてきた。男性型夢魔インキュバスは睡眠中の女性を襲い、その夜夢精した男性の精子を利用して人を妊娠させられる。しかし、女性型夢魔サキュバスは真に愛した相手の子しか宿すことはない。それは、サキュバスにとって最大のタブーだった。サキュバスと人の間に生まれた眷属は罰を受ける。すなわち、男子なら一生をインソムニアック(不眠症患者)として過ごす。そのためお前や白龍は不眠症だった。だが真の罰は生まれた眷属が女子だった時。彼女らは一生をソムナムブリスト(夢遊病者)として過ごし、長じては夢魔スレイヤーとなる」
「夢魔スレイヤー!?」


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