会場にいたすべての人間が、ストップモーションになったかのように動きを止めた。
次の瞬間、ケネス、ナオミはグニャリとゆがんでいく時空の裂け目に、冥界所縁のものたちと一緒に吸い込まれていった。
これこそがマクミラとダニエルが、何ヶ月もかけて練った作戦だった。アポロノミカンの予言を分析した結果、魔女たちがクリスマス・フェスティバルを狙って来ること、キャストの四人のベリーダンサーに取り憑くこと、それをふせぐことは不可能であることまでは予測がついた。
作戦を進展させたのは、アストロラーベだった。
今回のゲームに人間を巻きこむことは許されない、冥界、海神界、天界だけで片をつけるべき筋合いである、そして、それが魔女たちに対して勝機を最大限化すると主張した。もとよりマクミラとダニエル、アストロラーベに反対意見があるはずもなかった。
しかし、アストロラーベが、冥界三大魔術の一つ時空変容ミラージュによって闘いの場を精神世界に移すと言ったときには、マクミラは強く反対した。
この儀式は、冥界にも現在では使えるものがほとんどいなかった。巨大なエネルギーを無理矢理に止めるため、これまで数々の魔法使いの命を奪って来た危険な技であったからである。
しかし、マクミラが押し切られたのには、二つの理由があった。
ひとつには、アストロラーベの冷徹な戦力分析のせいだった。
人間界に来て20年、マクミラがようやく取り戻した力だけで魔女と闘えば、赤子の手をひねるようにやられてしまう。仲間と共に、精神世界に移動して全員が本来の実力を出して初めてなんとか闘いになると予想された。
第二に、マクミラがミシガン山中に立てた第3の建物ナイトメアランドでおこなってきた研究成果だった。アストロラーベが異次元空間同士とつなげても、666分間ならなんとか大きな危険は冒さずにすむという見通しがあったからだった。
いったん入り込んでみると精神世界は、サルバドール・ダリの溶けた時計で有名な絵画以上の不条理さだった。
地は溶けて流れ、天は渦巻き、海には噴火する山脈から流れ出る溶岩が絶え間なく流れ込んでいた。つい先ほどまで青かった背景は、瞬時にして黄色く変わったかと思えば、次の瞬間には真っ赤に変わった。しかし、アストロラーベの魔力によって、溶けた背景が形を取り始めると、中央には宇宙ロケットのような高い塔がそびえ立ち、中央のスペースには神々の銅像が彫り込まれた回廊が出現した。
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