孔明の声で、ナオミは我に返った。
「いったいどうした。ゾンビみたいな奴が明日の会場に現れるって言うのか? まさか・・・・・・」
そう言いながら孔明も今まで感じていた不安の正体に行き当たってショックを受ける。
「ねえ、会場に急いで。イヤな予感がする」
深夜のローデン・オーデトリアムの周囲はひっそりと静まりかえっていた。
卒業生で国際的な演奏家ジョナサン・ローデンの寄付によって七十一年前建てられたオーデトリアムは演劇やコンサートやまれに講演会に使われるロココ調の建物で、キャンパスで最も大学の伝統を感じさせる場所の一つだった。
オーデトリアムに着くと孔明が止める間もなくナオミは傘もささずに雨中に飛び出した。ドアにはもちろん厳重に鍵がかかっていた。
辺りを見回すが、誰もいない。
だが、雨中でとぎすまされたマーメイドの感覚が何かが近くにいると伝えてきた。
ナオミはゆっくりと屋根の上を見た。
オーデトリアムの屋根の上にいたのはジャグラーだった。
ジャグラーがお手玉をしているのは大道芸人が使うボールではなかった。
右から左へと次々に移動していたのは青白く光る火の玉だった。
火の玉は激しい雨にも消えることなく真紅のマントを羽織ったジャグラーと足下の三匹の犬の姿を浮かび上がらせた。
「はじめまして。わたしの名は、マクミラ」ハスキー・ボイスが闇夜に響いた。「とうとう会えたわね、ナオミ」
マクミラと三匹は体重を感じさせない動きでふわりと屋根から飛び降りた。
オーデトリアムの前の道路を挟んで彼らは対峙した格好になった。
ニッコリ笑うと口元にとがった犬歯がのぞく。
「ナンシーから聞いていたけど噂通りの美人ね」
一瞬、マクミラの蒼水晶の目が見開いて、またゆっくりと閉じた。
「ありがとう。わたしにはあなたが見えないからお愛想は返せないけど」
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