「儂は修行の結果、無我の境地から自己催眠に入れるようになったのじゃ」
「むがのきょうち?」
「頭の中を空っぽにすることじゃ」
「修行などしなくても、人の頭の中など元々空っぽではないのか?」
「口の悪いお嬢ちゃんじゃ。人の頭の中は煩悩でいっぱいなのじゃ」
「お嬢ちゃんではないと言ったであろう。おしゃべりしている時間はないし、年寄りの冷や水はやめておくことよ」
「情けをかけてくれるとは感心だが、こんな予言を知っておるかね。
白面の神が黒い龍と出会う刻
呪われた風が生まれて、多くの命が失われ
失われた多くの命が、新たな強大な国を生み出す
黒い龍が青い龍を日が昇る国に送り出す刻
三角形のパワースポットがその命を守り
白い龍が生まれ、その家族の命は残酷な運命によって失われて
青い龍が紅い龍を育てる刻
操るものが、銀狼の夢に現れ
天罰を与えるものが、雷獣の夢に現れ
引きつけるものが、深紅の龍の夢に現れ
踊り回るものが、目覚めたまま夢見る娘の夢に現れる刻
鏡が反転して、闘いが始まり
再び妃が現れ、五人の夢魔が無意識の底に消える刻
『夢見るもの』が目覚めの刻を迎え
祭一族の呪いが解ける
儂が父から聞いたアポロノミカンの予言じゃよ」
「この出会いを予測していたとでも言いたいか? お主等のデッドスリープ(死んだように眠る)の使命を受けているがスリープデット(眠りの中で死ぬ)でもたいした違いはない」
「まだ質問に答えておらんぞ。何の用でお出ましかね?」
「冥土の土産に教えてやろう。夢の中で、ごまかしなどしては沽券にかかわる。『夢は無意識への王道』とフロイトは言ったが、無意識は精神世界への王道。魔界反乱軍の指導者たち『虚無をかかえるもの』ビザード、『殲滅しつくすもの』ジェノサイダス、『誘いをかけるもの』夢魔の女王“ジル”・シュリリスが結界を破り、夢の世界から精神世界へ、精神世界から物質世界へと支配に乗り出される。現実世界と非現実世界がついに一つになるのだ」
「なんとも険呑なことじゃ」
「お主の孫と友人たちは我らが障害になりかねぬ。真に目覚める前に、夢に閉じ込めるように仰せつかった」
「聞き捨てならんな。若者の修行の妨げとは無粋なこと」
「我ら夢魔は淫魔の眷属だ。真面目にがんばる相手にこそ燃える。邪魔立てするならご老人でも遠慮せぬぞ」
「あわてるではない。今日は孫がお相手じゃ。さあ、鏡をご覧。それとも覗くのはおそろしいかね?」
「メデューサの眷属でもあるまいし」サマンザが鏡に映る自らの姿を見た。「何、これは!?」
鏡の中には紅いチャイナ服を着た娘がいた。
だが、その全身は包帯に包まれたミイラ女だった。
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