「やはり責任を感じていたか」アストロラーベが言った。「シュルド殿が叱責を受けたのは、お主のせいではない。シュルド殿からは娘を救ってやってくれと頼まれているのだ。闘いを止めて、降参するつもりはないか、リギスよ」
「おろかでありんす・・・・・・自由を求める歌姫に道理を説くとは。冥界の貴公子ではなく、冥界の詭弁士とでも名前を変えてはどうでありんすか?」
「挨拶だな。よかろう。久々の闘い、もしやこれが最後になるやも知れぬ。道理を説くのは、勝負の後とすべきであったな」
はたして何百年ぶりだろうか、戦士として闘うのは?
不安と期待感で、全身の体毛が逆立ってくるのがわかった。
同時に、リギスの魔力の強さを感じて、心の警戒警報が大きな音を立てて鳴りだしていた。しかし・・・・・・不思議だ。おそろしいほどの闘気を感じながら、殺気を感じない。もしやリギスは魔女を気どっているだけか? あるいは、純粋に闘いの楽しみを求めているだけか?
大将軍ヴラド・ツェペシュの下で闘っていた時、アストロラーベは闘うことを禁じられてしまっていた。父と交わした思念を、今、思い出していた。魔女たちにこだわりを語らせておきながら、自分自身のこだわりについて語ることは彼の美学が許さなかった。
(アストロラーベよ。お前は、闘いには向いておらぬな。いや、無能と言っているわけではない。それどころか、儂の言いたいことは真逆)ヴラドは、一呼吸置いた。(軍師としてたぐいまれなる才に恵まれ、戦士としての資質もまたけた外れ。だが、闘いに美学を持ち込もうとする。簡単に勝てる相手にあえて全力を尽くさなかったり、実力伯仲の相手にも芝居がかった手を使ったりする。半透明の槍を使えば無敵なくせに、この間の魔神との闘いの最中には炎のバラを飛ばし無用な危険を侵している。冥界の貴公子などと呼ばれて、いい気になっているのではないか。勝負に挑んでは、戦士はつねに鬼神であるべき。じゃが、しょせんお前は鬼神にはなれん。闘いに夢中になり、すべてをかけられるスカルラーベに今後の闘いはまかせるがよい。お前には今宵をかぎりに闘いを禁じる。闘いを芸術と考えるお前は、みにくい勝利よりも美しい敗北を選びかねぬ。父には、わかっておるぞ。それほどまでに、アフロンディーヌとの別れがつらかったか? わざと危ない橋を渡って、死に場所を求めているな。何も伝えたくないか・・・・・・よいであろう。今日の話の本題はそこではない。よいか。軍師としての闘いは、自分自身が闘うより何倍も何十倍もツライ。指揮した軍を勝たせて当たり前、負ければすべての責を負う。それだけではない。一人の犠牲もなしに圧勝しても、軍師は楽でよいと陰口を叩かれる。よいか、叩きたいものには叩かせておけ。冥界は、いつかの日か想像もできない危機を迎える。その時、勝利を収めるためにはレベルの違う軍師が必要じゃ。軍師は孤独だが、それで犠牲を最小限にできるなら安いもの。そして、その役をこなせるものはお前以外にはおらぬ)
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