肉を持つ存在の訪れを拒み、精神体の訪れのみが許される場所。
マグマ層とつながる地中深くに存在する4次元空間タンタロス。
そこに冥主プルートゥが支配する王宮があった。
大広間には大魔王サタン率いる魔界の6軍団、その下の66大隊、そのまた下の各々6666の悪魔を擁する666小隊が、冥界の親衛隊長ドラクールとサラマンダーの女王ローラに率いられた冥界親衛隊と争う場面が描かれている。半透明の槍をあやつり輝く青い羽を拡げた軍師アストロラーベと一振りで千匹の魔物の首をはねる鎌を持つ不気味な黒い羽を拡げた大将軍スカルラーベの兄弟の姿も描かれている。
めったに顔を合わせることのない天界、海神界、そして冥界の最高神たち。
ついこの間、マーメイドの娘を軸とするゲームを始めたばかりだというのに、再び彼らが集まらざるえない事態が起こっていた。
まさに、タンタロスに数万年に一度という騒ぎであった。
最下層の監獄コミュートスから天界との狭間「煉獄界」へと最悪の虜囚たちが、脱獄を試みたのである。
話は、最高位の神官マクミラが人間界に送られた直後にまでさかのぼる。
双子の妹ミスティラではまだ荷が重かったのか、マクミラが旅立って以来、反乱者や魔界からの侵入者を閉じこめた結界がゆるんできていた。これほどまでに結界がゆるんだのは、第一次神界大戦以来と噂されていた。
実は、盲点は人間界にあった。
死の神トッド、悩みの神レイデン、戦いの神カンフ、責任の神シュルド。
彼らは、人間界の管理を委託され、必要なら降臨の自由さえ与えられていた。その仕事は、人間を苦しめると同時に破滅に至らぬよう監視することであった。しかし、神導書アポロノミカンが人間界にわたってからは、つまらぬいさかいが破滅にまでつながりかねない事態がしばしば起こった。
さらに、四神が地上で堕天使と契って生まれた魔女たちは、冥主にとって悩みの種であった。魔界の住人とも平気でつきあい、冥界の秩序を乱してコキュートスに閉じこめられていた「不肖の娘たち」は、神官マクミラがいなくなった隙をみて脱獄をはかった。
中央に位置するプルートゥの王座の四方には高々とインフェルノが吹き出し、火砕流が止めどもなく流れサラマンダーたちがうごめく。
右の王座には天主ユピテル、左の王座には海主ネプチュヌスが鎮座している。熱に強いユピテルの周りには、火砕流が流れているが、熱を嫌うネプチュヌスの周りには火砕流だけでなく、硫黄の匂いもしないように配慮されている。
(事件については、すでに聞いておるであろう。脱獄者たちは、すでに人間界に向かっておる)青白い髪を逆立たせたプルートゥの思念が響きわたった。
(脱獄をはかったのは、いったい誰なのじゃ? 神界に住むものが、人間界で仮の姿を持てば1日で60日分歳を取り、1年で60歳分の歳を取るのを知らぬものはおらぬはず。あえて多元宇宙の精神界に逃げ出さずに、人間界に向かうとは・・・・・・)ユピテルが思念を返す。
(ドルガ、メギリヌ、ライム、リギスじゃ)プルートゥが、不機嫌そうに思念を返す。
さすがのユピテルとネプチュヌスも、四人の名を聞いてショックをかくせない。
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